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2008年06月30日

神と仏のモノガタリ

 最近読んだ本の中から一冊紹介。



●「神仏習合の本」(学研Books Esoterica 45)
 この学研のブックス・エソテリカのシリーズは、資料として便利なこともあってよく購入してきた。様々な宗教について豊富なカラー図版とともに概説してくれるシリーズで、アウトラインを掴むには最適。
 仏教や神道など、メジャーな分野なら参考文献は見つけやすいが、中々手頃な資料が見つけにくい「古神道」や「神仙道」などの分野もフォローしてくれているのも良い。
 ただ、あくまで概説本なので、正直このシリーズを読んだだけでは結局「何もわからない」のだけれども、あるテーマを勉強しようとしたときに「何を読めばよいのか、何を調べればよいのか」という取っ掛かりを与えてくれるので、独学派にはありがたいのだ。

 この「神仏習合の本」の舞台は日本の中世。外来宗教である仏教と、日本古来の天神地祇が、様々な形で擦り合わせが行われた思考実験が紹介されている。そもそも発祥の違う宗教を習合する手法として様々なこじつけや語呂合わせ等が駆使され、見るも異様な新しい神話が無数に産み出されていくことになる。
 こうした神々の合体は中世特有のものではなく、日本の古代に「記紀神話」が整備された時にも起こったことだろうし、近世の新宗教でも起こったことだし、今現在も起こりつつあることだろう。
 もっと言えば、仏教の生まれたインドでも、大乗仏教や密教が発展していく過程ではインドでの神仏習合が起こっただろうし、仏教がアジア各国に伝播する中で、それぞれの土地での神仏習合が起こったことだろう。
 いつの時代、どこの国でも神と仏は合体しまくっているわけなのだが、そんな中でも中世日本の神仏習合を特徴付けるのは、人間の無意識の暗い領域がそのまま溢れ出してきたかのような、異様な神仏図像の数々だろう。インド後期密教図像の迫力にも比肩し得るパワーが、日本中世の神仏図像にはある。
 この「神仏習合の本」には、他ではちょっと見られないような特異な図像の数々が、多数のカラー図版で収録されている。これだけの図版をバラバラで入手しようとしたら、一体どれだけの費用と労力がかかるかわからず、私の様な怪しいモノ好きの神仏絵師には、それだけでもう十分「買い」なのだ。
 当ブログの主だったコンテンツにカテゴリ大黒があるが、この本が取り扱っているのはその分野ともかなり重なっている。「二年前にこの本が出ていたら、どれだけ楽だったか……」と悔しい思いもあるが、逆にこうしてまとまった形で本が出てしまっていれば、わざわざ勉強してブログに記事を書くモチベーションは生まれなかったかもしれず、そうなると大黒様に関する私独自の思い入れも生まれなかったかもしれない。
 他にもちょっと面白そうな神仏話が満載なので、しばらくはこの本を道しるべに、また図書館で古い文書を渉猟することになりそうだ。
posted by 九郎 at 00:16| Comment(0) | TrackBack(1) | 神仏絵図覚書 | 更新情報をチェックする
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