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2006年01月16日

記憶の底4

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 母方の祖父は大工だった。
 木彫りを趣味でやっていて、それは片手間というにはあまりに膨大な情熱を注いでいた。作業場から道具、細かな彫刻刀の類など、ほとんど全てを自作。祖父宅の玄関を入ると、数えきれないほどの作品群、仏像や天狗や龍などが、所狭しと並べられていた。中にはまるで七福神に仲間入りしそうな雰囲気のサンタクロースもいた。
 祖父はよく山に入り、気に入った形の木材(根っこや木の瘤も含む)を拾ってきては、それに細工を施したりしていた。切り出されてきたアヤシイ形の珍木が、祖父の手によって更に得体の知れない妖怪に変貌していた。
 幼い頃の私は、そんな製作現場を眺めるのが好きで、祖父の操るノミや彫刻刀が様々な形を刻んでいくのを、いつまでも飽きずに観察していた。
 ある日祖父の彫刻群を色々観察していると、小箱に何かが収納されているのを見つけた。開けてみると、そこには数センチ程の大きさの小さな手、手、手、また手。様々な表情に指をくねらせた小さな手が、ぎっしり詰まっていた・・・
 もちろん祖父が猟奇事件の犯人だった訳ではない。生き物の手のコレクションではなく、木彫りの小さな手だったのだが、幼い私は物凄い衝撃を受けた。興奮した私は、さっそく祖父の真似をして、アブラ粘土で山ほど小さな手を作って箱に詰めた。当人は大真面目だったのだが、それを発見した親族は思わず失笑したようだ。
 仏像の彫り方の教本に、練習として手だけを彫る方法が載っていることを知ったのは、もっと後のことだった。
posted by 九郎 at 00:47| 原風景 | 更新情報をチェックする