戦国時代における雑賀衆の活躍を絵物語にしたいと思っているのだが、まだ時間がかかりそうなので参考図書などについて先にまとめておこう。既に紹介したことのある本もこの際一まとめに。
雑賀衆と言えば「雑賀孫市」その人にスポットライトが当たりがちだが、実はこの名も含めて後世の「物語」による脚色が多い。
史実にフィクションを交えて出来上がったヒーロー「孫市」の系譜の集大成は、なんといっても司馬遼太郎「尻啖え孫市」だろう。
私が持っているのは講談社文庫一冊にまとまったものだが、最近はリニューアルされて復刊しているらしい。
この小説が物凄く面白く、作中の「孫市」があまりに魅力的であることは、実在した「雑賀衆」の姿が現代の世に理解される上で、大きな可能性にもなり、また制約にもなっている。
かく言う私もまた、この小説の「孫市」像に心ひかれて雑賀衆のことを調べ始めたのだが、一筋縄ではいかない実在の「鈴木孫一」という謎めいた人物と区別をつけるまでに時間がかかった。
もっとはっきり言うならば、愛すべき司馬版「雑賀孫市」がフィクションの中だけに存在する人物像であると納得することに、心が抵抗を示していたのだと思う。
しかし一旦史実の謎に足を踏み入れ、当時の時代背景や一向一揆、石山合戦に取り組んでみれば、それはそれで豊かな謎と物語の世界が広がってくるのだった。
戦国の同時代、同テーマを扱った小説作品には、他にも面白く読めるものがある。
●「雑賀六字の城」津本陽(文春文庫)
●「火焔浄土―顕如上人伝」津本陽(角川文庫)
まずはこうした読み易いフィクションを楽しんだ上で、史実の世界に足を踏み入れてみよう。
雑賀衆や「雑賀孫市」は、並居る戦国キャラクターの中ではマイナーな部類に入る。他の戦国大名とは出自も行動原理も違っているので、非常に実態が伝わりにくい面がある。
専門に扱った書籍も少なく、小説を除けば一般向けで雑賀衆単独テーマの本は、以下の二冊くらいしか見当たらないだろう。
●「戦国鉄砲・傭兵隊―天下人に逆らった紀州雑賀衆」鈴木真哉(平凡社新書)
雑賀衆を扱った専門に扱った書籍が少ない中、史実として確認できる雑賀衆の姿と、物語の中の姿を丁寧に区別しながら、実像を浮かび上がらせている。
司馬遼太郎「尻啖え孫市」に描かれる姿とは違うが、中央から離れた紀州の地で、独自の方法論でしたたかに生き抜いてきた雑賀衆の姿が描き出されている。
鉄砲を用いた戦術についても詳しく述べてあり、色々と眼からうろこが落ちるような読後感があった。
今現在入手の容易な「雑賀衆」本は、これ一冊と言ってよい。
●「紀州雑賀衆鈴木一族」鈴木真哉(新人物往来社)
同じ著者の本だが1984年刊なのでやや入手は困難。図書館をこまめに探すのがお勧め。
上掲の新書より内容的にはこちらの方が詳しく、いわゆる「雑賀孫市」の実像により迫れるだろう。
ここから先へ進むには、もう原資料に当たって「研究」するしかなくなってくるかもしれない。そんな本だ。
2009年09月23日
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