【頗梨采女と八王子】
竜宮に到着した牛頭天王一行は、竜王の歓迎を受けた。不老門から長生殿に入り、ついに理想の后、頗梨采女(はりさいじょ)と対面し、結ばれた。天王と后は一時も離れることなく睦み合い、やがて二十一年の時が流れた。二人の間には八人の王子が生まれていた。
ある日、牛頭天王は八王子を呼び寄せ、このように宣言した。
「自分は天竺の王である。后を求めて南海に来る途中、魑魅魍魎の国の大王に辱めを受けた。当時は心身の穢れを祓った身であったので戦いは避けたが、今こそ鬼王の国を破壊し尽くそうと思う」
牛頭天王と八王子が数百数千の眷属を率い、軍備を整え出陣した頃、遠くはなれた巨旦大王の顔に不吉な相が現れた。奇異の念を抱いた大王が占いを命じてみると、「二十一年前の因縁による国の滅亡の前兆」と出た。大王は千人の僧侶を集めて泰山府君の法を行じさせ、城を鉄の防備でかため、牛頭天王の襲来に備えさせた。
【図像について】
今回の図像は「歳徳神(としとくじん)と八将軍」を参考にしている。牛頭天王を祀る神社などで御守りなどに広範に使われている図像で、頗梨采女と同体とされる歳徳神を中心に、その子供である八将軍が取り囲んでいる。歳徳神は大きなお腹をかかえ、如意宝珠を持ち、椅子に腰掛けた豊満な美女として描かれている。
牛頭天王がスサノオと習合したことから、頗梨采女=歳徳神はクシナダヒメであるとも伝えられている。