先日、コンビニの漫画雑誌コーナーで、「歴史街道増刊 大河」という雑誌の創刊号を見かけた。創刊号なのでどれも新作なのだが、表紙の中に「雑賀六字の城」という文字列を発見した瞬間に、私の右手がボクサー並みの速度で往復した(笑)

雑誌を一読。
以前の記事でも軽く紹介したことがあるが、「雑賀六字の城」と言えば、雑賀衆を扱った津本陽の小説で、今回の漫画はそれを原作にしたもののようだ。
作画の質も高く、かなり資料を用意して読み込んでいるのが伺われる。当時使用されていた原始的な「薬莢」である「早合せ」の詳しい描写が、漫画の中で登場するところなど、私はあまり見たことがない。
もともとの小説が、雑賀衆や鉄砲戦術、海戦術について詳細を究めたリアルな描写の作品なのだが、これほどのレベルで忠実に漫画として再現されているのははっきり言って驚異的だ。
何しろ24ページの初回で、300ページを超える原作の40ページ分ほどしか進んでいない。物凄い密度である。
折からの出版不況の中、この雑誌がどれだけ続くか不透明なのだが、ぜひとも漫画版「雑賀六字の城」は完結させてもらいたい。
と言うわけで、当ブログの読者の皆さんも、雑賀衆に関心のある人は雑誌を見かけたら手にとって見てください!
次号は2月25日発売予定とのこと。
あまり日は残されていませんね……
良い機会なので原作小説についても紹介しておこう。
●「雑賀六字の城」津本陽(文春文庫)
著者は和歌山市出身で、どうやら雑賀衆の血筋に連なるらしい津本陽。
以前紹介した神坂次郎も同様なのだが、地元出身作家が郷土の歴史を扱う場合の強みは、なんと言っても言葉や気質、風俗、土地勘を熟知していることだろう。
鉄砲戦術や海戦術については、調べればそれなりの知識は得られるだろうが、言葉や気質についてはやはりネイティブに勝るものはない。
執筆されたのは1980年代前半。この時点で雑賀衆の内の沿海部と内陸部の利害関係をきちんとおさえ、史実の徹底的な分析を行っているのは、司馬遼太郎の先行作「尻啖え孫市」と差別化を図るには是非とも必要なことだったのではないだろうか。
司馬版「孫市」ではほとんど触れられていない部分、雑賀衆が行った様々な火気の新規開発、火薬の製造、毛利水軍と連携した海戦術の描写にも、著者の意気込みが見える気がする。
物語は雑賀の土豪の年若い末っ子・七郎丸が、石山合戦の渦に巻き込まれて地獄の戦場を駆けるようになる筋立てだ。
その視点は一貫して雑兵足軽と同じ、地を這い泥を啜り、血腥い戦争の現実を直視していくことになる。雑賀の地に住む一般民衆から見上げた場合、戦国武将の中でも人気の高い織田信長が、いかに冷酷無残な魔王に映ることか、読者は背筋の凍る思いで読み進めることになるだろう。
作中には「鈴木孫一」も登場するのだが、同じ雑賀衆からは「戦の実力は認めるものの、どこか信頼の置けない人物」と思われているところなど、実際ありそうな話なので非常に面白い解釈だ。
ただ、史実としては津本作品の方が正確なのだと思うが、司馬版「孫市」の陽性なキャラクターが存在しない戦争の、なんと殺伐として酸鼻を究めていることだろうか。
主人公が多感な十代の少年で、まだ人を殺めることに麻痺しきっていない点がせめてもの救いと言えるかもしれない。
同著者には雑賀衆に関連する作品が多数あるので、いずれ続けて紹介していくことになるだろう。
ところで、雑賀衆に関する漫画と言えば、「COMIC戦国無頼3月号」という雑誌に孫市が主人公の「ヤタガラス」と言う作品が載っているという話を聞いているが、雑誌自体を見かけたことがない。
ご存知の人がいたら、情報求ム!