ずっと眺めていても飽きない。
海に浮かんだ船を眺めるのも楽しい。
ゆっくり行きかう船ならいくらでも眺めていられる。
しかし。
いざ調べようとするとけっこう苦労する。
私の現在の興味の対象は、日本の戦国時代の海の民・海賊・水軍のあれこれだ。
出版界は「戦国ブーム」と呼ばれて久しく、各種特集本も出続けているのだが、「海」という切り口で当時の水軍や海戦、流通をまともに取り扱ったものは少ない。
毛利、村上、九鬼等の主要な水軍の本はもちろん出ているが、一冊で「海の民・海賊・水軍」について広範に取り扱った入門書となると、注文が贅沢すぎるようだ(笑)
一冊選ぶとしたら、以前カテゴリ和歌浦でも紹介したこの一冊。紹介文とともに再録しておこう。
●「瀬戸内の民俗誌―海民史の深層をたずねて」沖浦和光(岩波新書)
陸路の交通機関が発達しきった現代人には理解しづらくなっているが、中世において「水路」は交通・物流の中心だった。とりわけ西は関門海峡から東は紀淡海峡にまで及ぶ「瀬戸内」は、交通の大動脈であった。海や河川の道を中心に据えてみれば、現在は僻地にしか見えない孤島や浦が、交通の要地として賑わっていた事実が浮かび上がってくる。
この本にも「雑賀衆」はほとんど登場しないが、同じ瀬戸内の非常に緊密に交流し合っていた「海賊」「水軍」に関する記述を読んでいると、「海の民」としての雑賀衆が理解できてくる。
何故こうした「海の民」に本願寺の信仰が広まり、一向一揆、そして石山合戦を戦い抜いた力の源泉になったのかが明らかになってくる。
書店で望む本が見当たらない場合は図書館へが鉄則。
専門書架を巡るのはもちろんだが、意外に良い入門書が見つかるのが児童書のコーナーだ。
●「まんが日本史キーワード 海賊の表と裏」高野澄 ムロタニツネ象(さ・え・ら書房)
絵は「往年の学研まんがの歴史モノでよく見たあの絵柄」と言えば、三十代〜四十代には通じるだろうか。素朴な絵ながら内容は極めてわかりやすく、なじみの薄い「海の勢力」について解説されている。
海の民・海賊・水軍は、陸上から見た分類であって、それぞれ分かちがたく結びついている。特に海賊と水軍は、本質的には同一の集団を指していると考えてよい。陸上の権力者に対し、独立して勢力をふるう場合は「海賊」と表現されやすく、協力的な場合に「水軍」と表現されやすい、といった程度の違いしか実は存在しないのだ。
中世までの長い期間、海上は海の民の取り仕切る、一種の治外法権の世界だった。陸上の権力機構が戦国期を経て強力な中央集権に変化する過程で、各地の海上勢力は解体され、自由だった交易を管理下に置かれるようになり、「海の上のもう一つの日本」は終息していく。
そうした流れを決定づけたのも、石山合戦だったのではないかと思える。
それでは中世の海の民が操っていた「舟」は、どんなものだったのだろうか?
これも図書館の児童書コーナーでぴったりの本を見つけた。
●「調べ学習日本の歴史15日本の船の研究―日本列島をむすんださまざまな船」安達裕之(監修)(ポプラ社)
日本史上に登場した様々な和船について、豊富なカラー図版とともに解説。図版の選び方が絶妙で、決して「子供向け」のぬるい内容ではない。贅沢を承知で難を言えば、戦国時代の史料がさほど多く収録されていないことと、図面資料が少ないことか。
私は現在、ある港町に住んでいる。さすがというか、海事に強い書店を一軒見つけることが出来たので、そこでも探してみる。
すると日本各地の海洋博物館の類で発行された冊子や、開催された展示の図録を集めたコーナーがあった。
小躍りしながら物色し、手に取ったのがこの一冊。

●「日本の船 和船編」安達裕之(船の科学館)
和船の歴史、構造の変遷等を、豊富な図版で詳しく解説。図面も多数収録され、戦国時代の資料も豊富。上掲「日本の船の研究」と同じ著者で、児童書ではないだけに文章部分はさらに踏み込んだ内容になっている。
和船に関する概要は、この二冊でほぼ事足りるのではないだろうか。
良い入門書が見つかったことに満足し、ページを繰りながら楽しんでいると、ふと何度も繰り返される引用元の書名が気になった。
「図説 和船史話」
どうやらこれが、和船資料界のボスキャラの名なのか?
なにやら凄まじそうな本の匂いが漂ってきた。
私の本マニアとしての感覚が騒ぎ出しきた。
ゾク
ゾク
ゾク……
(続くw)