インド神話のマハーカーラは仏教に読み替えられて大黒天となり、さらに日本に至って大国主(おおくにぬし)の神と習合して、いわゆる「だいこくさま」となった。「だいこくさま」の図像的イメージは、この「大国主」から引き継いでいる。
大国主神(おおくにぬしのかみ)は、日本神話の三貴子の一であるスサノオの、六世の孫と伝えられる。母親を異にする八十人の兄弟と、稲羽の八上比売(やかみひめ)を争い、因幡の素兎を助け、兄弟の謀計で二度死ぬが母神の力で蘇り、ついに根の国に逃亡した。
落ち延びた大国主は、根の国でスサノオの娘、須勢理毘売命(すせりびめ)と恋に落ちた。スサノオは大国主に様々な試練を与えるが、須勢理毘売の手助けもあって何とか乗り切って行く。打ち込んだ鏑矢を拾ってくるように命令された野原では周囲に火を放たれ、あわや焼死しかけたが、鼠達の助けによって役目を果たす。
ついには根の国から須勢理毘売命やスサノオの神宝を奪って顕国に帰還し、国津神の王となって日本を治めた。(後にアマテラスの系統の天津神に国を譲り、幽界へと去って行くことになる)
大国主が大黒天と習合したのは、一般にはどちらも「だいこく」と読める名前の類似からであると言われている。他の習合の場合でも、ルーツの違う神々が名前の類似から結びつく例は数多いので、一応納得のいく説明ではある。
しかし大国主の特徴を一つ一つ検討してみると、シヴァ一族の神話イメージとの共通点が多数見つかることに気付く。
【暴風神の一族】
大国主はスサノオの子孫であり、娘婿。スサノオは日本神話では暴風神に相当する。これは暴風神ルドラをルーツとするシヴァ、その化身とされるマハーカーラの構図と共通点がある。
【軍神の一面】
大国主は一名「八千矛神」で、国を武力で制圧した軍神の一面を持つ。これは、シヴァ→大自在天、マハーカーラ→大黒天、スカンダ→韋駄天と言う、シヴァ一族の軍神としてのイメージと共通する。またこれは、仏教における軍神の代表、毘沙門天との共通点でもある。
さらに図像的共通点として、大国主は八十人の兄弟達に荷物を持たされたため、大きな袋を背負った姿で描かれるが、軍神風の大黒天も袋を片手に提げているという点は注目できる。
【福徳の神】
大国主は多くの異名を持ち、多くの妻神を持つ縁結びの神であり、歌を唄いつつ女神を訪問する芸術の神である。天津神への「国譲り」までは豪華な宮殿に暮らした財福の神でもある。
これらの特徴は、多数の異名と妃を持ち、舞踏の神でもあるシヴァや、シヴァの息子の福神ガネーシャと、同種のイメージである。そういえばガネーシャには「鼠を乗物にする」と言う特徴があったが、「鼠に助けられた大国主」と比較すると、偶然にしてはかなり興味深い。
他にも「天津神に敵対したが後に従った大国主」の構図と、「仏教に敵対したが後に守護神となったシヴァ」の構図にも、共通するイメージがある。
このように、単に「だいこくつながり」の語呂合わせだけでなく、神話的イメージの類似が「だいこくさま」合体の呼び水になったのかもしれない。
2006年06月22日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック