カテゴリ「大黒」の前回記事で紹介した「天川弁才天曼荼羅図」は、多数の蛇神と稲荷狐、女神、如意宝珠などが合体した驚くべき図像を構成していた。
今回紹介するのは「蛇と狐と女神、如意宝珠」に加えて、天狗や大聖歓喜天(ガネーシャ)が合体した、さらに異様な図像を紹介してみよう。
上図は「荼吉尼天曼荼羅」の中尊を再現したものである。正面の顔は頭上に人頭蛇身の宇迦之御魂を頂いていることから考えて、弁才天であろう。右は象頭なので間違いなく聖天。残る左の女神は、荼吉尼天と考えて良いだろう。光背の中には北斗七星も描かれている。
十二本の腕には様々な持物を備え、いかにも呪力が強そうである。巨大な翼を背負い、狐にまたがっている姿は、飯縄権現(天狗と同体とされる)を思わせる。腕や狐にはそれぞれ蛇が絡みついており、よく見ると如意宝珠もたくさんちりばめられている。
この中尊の周囲には、先に紹介した「天川弁才天曼荼羅図」同様、女神や童子、蛇神に狐、半裸の男女など、意味ありげなイメージが舞い踊り、天狗も加えられている。
これまでシヴァ神の流れの中で辿ってきたイメージの多くが集約されていることがわかる。
この図像は強力な現世利益をもたらすと考えられ、中世には天皇の即位灌頂にまで用いられたという話も残っている。
また、同じ荼吉尼天・弁才天・聖天の組み合わせで、別の構成をとった図像もある。
上図は、「夜叉神」「三天神」と呼ばれる図像で、ほとんど荼吉尼天曼荼羅中尊と同じ姿であるが、頭部の構成や持物等が違っており、曼荼羅ではなく、狐にまたがる二童子とともに三尊形式で描かれている。
この図像は他にも呼び名があり、その名を検討すると、この神の持つイメージがなんとなく理解できてくる。
一つには「摩多羅神(またらじん)」とも呼ばれ、阿弥陀如来の「後戸の神」とも関連付けられていること。そう言えば、二童子を従えている姿は同じ構成だ。
もう一つは「玉女(ぎょくじょ)」と呼ばれていること。玉女と言えば「仏教への読み替え4 大聖歓喜天」で紹介した、ガネーシャのパートナーとしての十一面観音、そして親鸞の六角堂の夢告に現れた救世観音を思い出す。
どちらも性的な昇華のイメージを持つ名である。
荼吉尼天・弁才天・聖天中心に、様々なシヴァの流れのイメージを併せ持った二つの図像。肝腎のシヴァや大黒そのものは見えないが、笑う三面神の姿は凄まじい。
2006年07月17日
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