私は戦国時代の石山合戦に強く関心を持っているので、信長方の最終兵器と目される「鉄甲船」についても、ぼちぼち資料を漁っている。
歴史モノで大きく取り上げられることが多い鉄甲船だが、確かな実像はほとんど何もわかっていないと言ってよい。本当に鉄板を船体に貼っていたかどうかということにすら、けっこう異論が存在したりする。
信長が建造させた軍船には大きく分けて二種ある。
琵琶湖で造らせた「大船」と、九鬼嘉隆に造らせた「鉄ノ舟」で、両者ともにその詳細は不明である。
確かなことは、それらの軍船が戦国時代の水軍の主力であった「安宅船(あたけぶね)」と呼ばれるタイプの形状を元にしており、当時としては巨大であったことと、大砲を装備していたらしいことだ。
現在流布している復元図も、基本的には安宅船を「大きく、黒く」描くことが基本になっている。
だから「信長の鉄甲船」について調べる場合は、まず安宅船についての資料を探さなければならない。
先月、和船に関する記事にコメントが寄せられ、見事な模型写真を紹介していただいた。
紹介していただいたのは江戸時代に徳川家光によって建造された「安宅丸」で、安宅型の軍船としてはおそらく史上最大(全長では信長の「鉄甲船」の二倍近く)で、こちらは江戸時代の絵図が現存しているので、各種復元図にもかなり確実性が高いと思われる。
模型写真を見ているうちに、久々に和船についての興味が刺激され、いくつか本を調べてみたのでご紹介。
まず和船と言えばこの人「和船史話」の石井謙治の二冊。
●「船 復元日本大観」石井謙治 編集(世界文化社)
大型豪華本で、古代から近代までの日本の船舶を、迫力サイズの図面や再現イラストで紹介している。史料の確実な江戸期の弁財船が中心的な内容だが、戦国時代の軍船についてもそれなりのページが割かれている。
和船の復元模型が作りたい場合は、本書を開くことがまず第一歩になるだろう。
石井謙治監修の図面や再現図は、現在出回っているほとんどの戦国軍船再現図の元ネタになっているので、これを抑えておけば大筋で迷うことはなくなる。
様々な文書や画像をPC画面で見ることに慣れてしまった昨今だが、こういう本を見ると、紙の豪華本の素晴らしさをつくづく再認識できる。
目の前の視界いっぱいに絵図が広がっているということは、それだけで一つの「体験」になっている。
本を開いて絵を眺めるだけでも楽しい本だが、なにせデカくて高価。
図書館で調べてみるのが無難。
●「日本の船を復元する 古代から近世まで」石井謙治 監修(学研)
コンパクトだが上掲本とほぼ同じ内容で、定価も安い。本来ならこちらの購入をお勧めしたいのだが、現在amazonでは古書扱いになっていて、けっこう値が張るのが残念。復刊熱烈希望!
●「ドキュメント信長の合戦」藤井尚夫(学研)
著者は戦国史研究とともに、以前「復元ドキュメント 戦国の城」という本で、非常にパースのしっかりした戦国の城閣絵図を作成していた手練れの絵師でもある。
手描きの風合いの強いパースイラストで、最近の3DCG全盛の風潮の中では異彩を放っている。
私は昔、造園関係のイラスト作成を少し手伝っていたことがあるので、こういう絵柄は懐かしくて大好きだ。
地形を分析し、わかりやすく編集し、主線で囲んで表現してあるので、物の立体感や位置関係が、見ていて非常に理解し易い。
写真仕立ての3DCGは一見リアルに見え、雰囲気をつかむには優れているけれども、実はけっこうゴマカシがあって、資料として使うには意外と不便だったりする。
こうした手描き風のパースはもっと価値が見直されるべきだ。
本書は信長の合戦に関する様々な再現パースと、詳細な解説がぎっしり詰まっていてお買い得。
石山合戦時の大阪平野の地勢も再現されており、戦国軍船と信長の鉄甲船の再現イラストも、もちろん収録されている。
石井謙治とは少し異なった方向からのアプローチなので、上掲本と合わせて読むと、観方が深まると思う。
この人の手による戦国期の大坂本願寺の再現イラストを、是非とも見てみたい!
2011年06月21日
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