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2011年07月25日

異能の語り部 広瀬隆

 孤高を保ち、独自の存在感を示しながらも、毀誉褒貶が激しい。
 読む者、聴く者の感情を激しく揺さぶる能力を持つ。
 受け手の首根っこを引っ掴み、ともかく最後まで話を聴かせてしまう力量を持つ。
 
 ジャンルを問わず、そんなタイプの語り手がいる。
 私はけっこうそういう癖のあるタイプが好きなので、そうした表現者と出会う度、そのほぼ全作品を手にとって贅沢な時間を過ごしてきた。
 基本的に私の蔵書は「浅く広く」なのだが、その中に同じ作者の本ばかり詰まった段ボール箱のエリアが、いくつか存在する。
 その一つに「広瀬隆ボックス」がある。

 二十年ほど前から、全作品ではないが、広瀬隆の本は七割以上読んできていると思う。
 チェルノブイリ原発の爆発事故以降に盛り上がった前回の反原発の波の中、広瀬隆は一方の旗手として広く読まれてきた。
 そうした本の中に、有名な「東京に原発を!」や「危険な話」があり、私も確かこの二冊あたりから広瀬隆にハマっていった記憶がある。



 どちらも福島の原発事故を受けて、現在も入手可能のようだ。
 試みに手元の本を読み返してみると、今開いても内容はほとんど古くなっていない。二十年以上前の時点で指摘されていた数々の問題点がそのまま、今回のフクシマの破局へと繋がったことが再認識できる。

 広瀬隆は技術職上がりのノンフィクション作家である。
 今も昔も原子力の専門研究者ではないが、その分、専門バカにならずに広範な資料を集積し、現状から将来の危機を予測するシミュレーション能力に優れている。
 そしてその予測結果を、素人に非常に分かり易く、感情を揺さぶる文体で表現することに異能を発揮する。
 この「感情を揺さぶる」という部分が、賛否の分かれるところではある。
 誤解を恐れずに言えば、「あまりに話が面白すぎる」のだ。

 その異能は、80年代当時から原発推進派のヒステリックな反撃を誘発してきた。
 曰く「センセーショナルに確率の低い危機を煽りたてている」、曰く「専門家でもないのに何の資格があってデマを流すのか」、挙句の果てには人格攻撃に発展し、「陰謀論者」などという根拠の無いレッテル貼りで封殺しようとする……
 
 そして本来は同じ陣営に属するはずの反原発派からも、批判にさらされることになる。
 「冷静な議論を阻害している」「データに不正確な点がある」「自然エネルギーを軽視している」等々。

 しかし、下で紹介する講演動画を見れば誰もが感じられると思うが、広瀬隆本人にはことさら受けを狙ったり、過激な表現で物事を大袈裟に見せかけたりしようとする意思はないだろう。話の分かり易さ、面白さは「天然モノ」なのではないだろうか。
 
 本の中で取り扱っている資料の見方に一部不正確な点があるのはよく指摘される。私も何度か確認したが、それで全体の論旨が破綻する程のものは無かったと理解している。
 それよりも、細かな点をいくつか指摘することで、広瀬隆の論旨を全否定したがるヒステリックな批判者の心理に興味が湧いてくる。

 80年代以来、3.11以降も、広瀬隆の主張はほとんど変わっておらず、そのことが「卓越した先見性」として再評価されることになった。
 今のような非常時には、こういう「異能の人」の言葉にもっと耳を傾けるべきだ。 
 本当は普段から異能の人の意見はちゃんと聴き、最悪の想定をしておかなければならないのだけれど。

 広瀬隆が今現在、繰り返し声を大にして伝えようとしている主張を私なりにまとめてみる。

●福島を中心とした汚染地域の子供たちを、一刻も早く国の責任において疎開させるべし。
●全原発を即時停止し、燃料棒を抜き取るべし。
●放射性物質は、一か所に大量にまとめてはならない。
●全原発を即時停止しても電力が不足することは無い。
●太陽光、風力よりも、ガスを中心にした火力や燃料電池をまずは推進すべし。

 その主張の当否については、それぞれ直接に広瀬隆の言葉にあたってみてほしい。
 
 まずはネットで短時間に読めるインタビュー記事。
 広瀬隆特別インタビュー「浜岡原発全面停止」以降の課題

 もう少し時間があるならば、一時間40分ほどの講演動画。

 名うての原発推進派・鳩山由紀夫が出席しているのが謎である。「最後に会った人の意見が由紀夫の今の意見」という世評が真実味を帯びる(苦笑)
 ちなみにこの勉強会の後、鳩山由紀夫は「地下式原子力発電所政策推進議員連盟」などと言うアホ丸出しの代物に名を連ねている。

 2~3時間とれるならば、新書版を読んでみよう。
 以前から何度か紹介してきた預言の書、「原子炉時限爆弾」の内容が、実際の事故を受けて読みやすくまとめられている。

●「FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン」 (朝日新書)
posted by 九郎 at 10:30| Comment(0) | TrackBack(0) | | 更新情報をチェックする
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