祖父母宅のあった地域は、広々とした平野に位置していた。あちこちに溜池や小山が散在しており、幼児の私が登り始めた裏山も、そんな中の一つだった。
岩が多く、樹木はまばらで、植物相はさほど深くない。その裏山も、子供が登れないことは無かったが、幼児であれば安全とは言いがたい。
それでも私は登らなければならなかった。その時をおいて「山の向こう」に辿り着くことはないと確信しきっていた。今となっては自分自身にも意味不明の、幼児特有の頑固さでそう思い定めていた。
家の裏に迫った岩と岩の隙間の、子供の目には道らしく見える所を「ここが入り口か」と勝手に判断して、私は登り始めた。潅木の枝の下をくぐり、草のにおいをかぎながら、どんどん先へと進んでいく。木や草や岩のトンネルを抜ける道行きは、最初は少し怖かったが、すぐに面白さの方が上回った。
登れば登るほどトンネルは延びていくようで、また少し怖くなり、後悔し始めていたが、もはや後には引けない。怖いのと同時に、この状況をドキドキしながら面白がっている自分もいて、とことん進まなければ気がすまなくなっていた。
それからどれぐらい登ったことだろう、時間にして見れば十数分、あるいはほんの数分のことだったかもしれないが、幼児にとっての主観的な時間経過はとてつもなく長かった。
茂みのトンネルを抜け、視界が急に開けてきた。
2006年12月26日
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