そこは静かな木立の中だった。
しんと白っぽく時間が止まり、足元の下草を踏む音が、カサカサと耳に響いてきた。一体ここはどこなのかと、魅入られたようにトコトコと前進する幼児の私。
自分はついに「山の向こう」へ辿り着いたのか?
そんな期待とともに歩を進めてみると、意外な風景が目の中に飛び込んできた。
そこは墓地だった。観音さんの御堂の上にあり、私もよく遊びに行っていた村のお墓だったのだ。
大人になった今考えてみれば、不思議なことは一つもない。私は祖父母の家から小山の反対側にある墓地まで、山頂を経由して辿り着いたに過ぎない。
しかし子供心には、それは異様な出来事に感じられた。山はどこまでも続き、見知らぬ世界につながっているはずなのに、まっすぐ登った結果が自分の知っている場所になるのは不思議でならなかった。
子供なりの理屈では、とても納得のいかない現象に思えたのだ。
納得はいかなかったけれども、私は自分の身に超常現象が起こったような気がして興奮した。何かこの世の大切な秘密事項の一端に触れたつもりになり、大変満足だった。
そして自分の「大冒険」を噛み締めながら、観音さんから帰るいつもの道を通って、祖父母宅へ急いだのだった。
2006年12月27日
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