今年のNHK大河「平清盛」が完結して一週間。
大河ドラマ50周年記念作品にして、最低視聴率を更新したとのことで、散々の酷評の嵐である。
今年一年、私自身もブログで散々叩いてきた一人なのだが、あまりに批判一色だと一言物申したくなる。
確かに手放しで褒められる出来ではなかったが、「大河史上最低の出来」だったかと言えば、そんなにひどくはなかったんじゃねーの、と思ってしまう。
まあ、単に私がへそ曲がりなだけかもしれないが。
試みに、これまで当ブログにアップしてきた「平清盛」評をピックアップしてみる。
久々に観たNHK大河ドラマ
平氏の時代と平家琵琶
「今様」を今うたうなら
「今様」を今読むなら
曼荼羅なめんなよ
マイヒーローは今も
けっこう書いているが、読み返してみると真正面からのドラマ評というよりは、ドラマを観て折々感じたことの覚書という感じだ。
このあたりの距離感に、ありえない部分に突っ込みながらも結局観続け、色々頭の中を整理するきっかけにしていた私の、「平清盛」との付き合い方があらわれているようだ。
やりたいことはよくわかる。
その志は買う。
しかし、そのやり様はないだろう。
端的に言葉にするならば、上記のようになる大河ドラマだった。
通常、本格的な「武士の世」の到来と理解される源頼朝の鎌倉幕府に先駆けて、平清盛がその先行形態を作り上げていたのではないかという視点。
瀬戸内を中心とした海上交易、海賊、水軍にスポットライトを当てる視点。
白拍子や今様など、当時の芸能を後白河院を軸に捉えなおそうという視点。
どれも、私にとってはひどくそそられる視点である。
そうしたある意味マイナーな視点を、大河ドラマという広範な視聴者を対象にした大舞台で取り上げようとした心意気自体は大いに買いたかった。
しかしながら、出来上がって毎週放映されるドラマを視聴すると、なんとも微妙な感覚を抱くことになってしまう。
海上交易や海賊、水軍は、予算の関係からかほとんど実際のシーンとして描写されることは無かったし、当時の芸能も中途半端に現代風で、どこまでが創作でどこまでが再現なのか判然としなかった。
源平時代を描くなら一番の売り物となるべき合戦シーンも、さほど華やかなものにはなっていなかった。
主要メンバーの着用する大鎧がひどくみすぼらしく映ったのは、よく言われる画面の不鮮明さだけではなく、予算があまり割かれなかったせいではないかという感想を持たざるを得ない。
そして、これが一番の問題点だったと思うのだが、演出の一つ一つが悪い意味で「漫画的」だった。
念のために書いておくと、私の漫画に対する愛情は人後に落ちない。漫画こそは人類の生み出した表現形態の中でも最上のものの一つだと信じている。
しかし漫画の演出方法は、あくまで「漫画の絵=略画」を土台にした表現方法であって、実写のそれとは全くノウハウが異なるはずである。
記憶に新しいところでは、最終回で清盛が高熱で倒れるときに、巨木がメリメリと音を立てて倒れる効果音が重ねられているシーンがあり、さらに高熱にうなされる清盛の体が浴びせられた冷水を沸騰させているようなシーンもあった。
どんな効果を狙っているかは説明されなくてももちろん理解できるが、観ていて思わず失笑してしまったのはこちらのせいではないだろう。
というか、
そういう演出を実写でやるな、アホ!
と画面に向かって呟いてしまったのも、私だけではないだろうと思う。
このレベルのありえない演出が、各話に一回ずつぐらいは必ず紛れ込んでいて失笑してしまった印象が、今回の「平清盛」には抜き難くある。
個人的に興味のある領域が扱われているので、どうしても毎回観てしまう。
観てしまうと稚拙な部分が目について文句を言いたくなる。
さりとて見るのをやめてしまうほど全体が酷いわけではなく、脚本と演出のはっきりした欠陥に比して、各役者はむしろものすごく頑張ってドラマを盛り立てようと奮闘している様が見て取れる。
結果、なんとも言い難い複雑な感情をドラマに対して抱くことになってしまう。
ともかく、役者の皆さん、とくに主演の松山ケンイチさんには、一年間本当にお疲れ様でしたと心からの賛辞を送りたい。
私自身にとっては、一年間ドラマに付き合うことを通して、芸能を含めた同時代の時代背景について、多くを学ぶことができたのは得難い収穫だった。
とくに「平家物語」に対する認識を深めることができたことには、深く感謝しているのである。
この一年、様々な本を読んできたが、一冊挙げるとするならば↓これをお勧めしておきたい。
●「平家物語の読み方」兵藤裕己(ちくま学芸文庫)
現代の私たちが「平家物語」を鑑賞する場合、まず最初に手に取るのは(原文か現代語訳かの違いはあれ)文章になったものを黙読するという形態になりがちだ。
しかし長く伝承されてきた「平家物語」は、主に盲目の琵琶法師によって口唱されてきたものであり、それを聞いた聴衆の心に受け止められた物語の印象は、テキストをただ黙読した場合に感じられるものと、また違った印象のものになるはずである。
そうした、言われてみれば当たり前なのだが、言われるまではなかなか気づけない切り口で、「平家物語」という不思議な物語の成立過程と受容の歴史をわかりやすく解説してくれる一冊である。
大河ドラマで時代背景に関心を持った人は、一度は目を通す価値があると思う。
2012年12月30日
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