私はワープロを使い始めたのは早かったのだが、パソコンに乗り換えたのはようやく三年前。それまでは使い込んだ骨董品のような巨大ワープロを延々使用し続けていた。
今から考えると、この長すぎたワープロ時代が自らの手足を縛ってしまっていたことがわかる。私は仕事やミニコミ制作を通じて、手描きイラスト+ワープロ文字のノウハウに熟練し切っており、その技術を頼むあまり極めて保守的(もっと言えば頑迷固陋)な心理状態に陥っていた。頑なにいつもと違うエサや道順、毛布などを拒否する犬に似た心理状態である。
ただ、一応理屈はあった。
「パソコンで出来る程度のことは手作業で十分出来るし、今更一から練習し直す時間があるなら作品制作に当てるべきだ」
Macが流行り、個人向けのパソコンが「イラストにも使える」ことが話題になり始めたのが90年代半ば頃だったと記憶しているが、その頃のPCはそれでもまだまだ高価で(現在に比べれば)性能も低く、例えばイラストに使用するには「PC本体やソフトの代金+PC操作の練習+動作の重さによるストレス」などのハードルが高かった。その頃はインターネットもまだ広まっておらず、私にとってPCは費用対効果の低い印象が強かったのだ。
仕事の上でも「版下作業」と呼ばれるものはまだまだ根強く生き残っており、その技術に過剰に熟達した私は、PCへの乗換えの必要に迫られていなかったせいもあった。
そして時は流れて2000年代に入った。この段階でWindows2000やXPが登場し、PCの価格が一段階ガクンと下がり、それに反比例して性能は上がった。インターネットが広まり、その威力が十分に発揮されるようになってきた。さらに2002〜2003年頃にはPCの価格が半分近くまで下がり、インターネットの常時接続も当たり前の風景になった。
私は2004年の年初め、一念発起して10万ぐらいのノートPCを購入した。この価格であればビンボーな私にもなんとか手が届いたし、性能的にも十分なものだった。PC購入によって節約できる写真整理や資料集め、画材の費用を考えれば、十分お釣りがくるレベルまで値段が下がっていたのだ。
私はスロースターターだが、一旦ハマると脇目もふらなくなる性癖を持っている。犬は使い古した毛布を偏愛する一方、新しい毛布の気持ち良さに気付くとあっさり乗り換え、古い毛布には鼻も引っ掛けなくなる。頑固な犬としての私は、まさにそのようなパターンでPCにのめり込んで行ったのだった。
2007年01月28日
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