学生時代、90年代前半、そして2000年代の2年間ほど、少々演劇に関与してきた。
三期とも、主に舞台美術スタッフとしての参加。
90年代前半に所属していた劇団が、今年旗揚げ二十周年だという風の便りを聞く。
おめでとうございます。
その節は、ご迷惑を……
時が流れて振り返ってみると、チームプレイが苦手だった私をよく我慢して使ってくれていたものだと、昔の仲間たちには申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
同時に、予算20万なら20万の範囲内で演出の注文を最大限形にするという点では、他の誰にもできないレベルで舞台を作っていたなという思いもある。
舞台美術だけでなく、小道具やイラストなど細かな工作物も一通りこなせたので、旗揚げ前後に一人いると便利なタイプだっただろうなと、我ながら思う。
そこからもう一歩進んで、「もっと金と人をかけた舞台美術をやりたい」という欲が出ていれば、もしかしたらその後もずっと続けていたかもしれないが、私はそこまで演劇に対して貪欲にはなれなかった。
幾人かの先輩や後輩、仲間たちのように、演劇で生きていくほどの覚悟はついに持てなかったものの、今でも関心は持ち続けている。
最近、ふとしたはずみで手にとった漫画が、演劇テーマでものすごく面白かった。
演劇漫画と言えば、誰もが最初に頭に浮かぶのは「ガラスの仮面」だと思うが、私が今回読んだのは「ライジング!」という作品。
●「ライジング!」原作:氷室冴子 漫画:藤田和子(小学館文庫 全7巻)
宝塚を思わせる歌劇団の音楽学校に、成り行きで迷い込んだ帰国子女の物語。
もう三十年以上前の作品だが、描かれる業界の細部は全く古さが感じられない。
少々演劇をかじってきた者の目から見ても、かなりリアルな描写であるという印象を持つ。
格闘漫画でたとえると、「ガラスの仮面」=「北斗の拳」ならば、本作「ライジング!」=「拳児」という風に置き換えられるかもしれない。
(念のため書いておくと、作品のリアルさの度合いと面白さは無関係で、リアルであるから面白いとか、リアルでないから面白くないということは全くない)
この作品には、「ガラスの仮面」のように「ほとんど超能力者レベル」というキャラは登場しない。
現実の演劇界には、「たった数日間の準備で大舞台の代役を見事につとめてしまった宮沢りえ」などというとんでもない超人が、結構な頻度で実在したりもするのだが、フィクションでそういうことを描いてしまうと、読者には「ああ、この作品はファンタジーなんだな」と分類されてしまう。
いくら本当にあったことでも、読者がそれを読んでリアリティを感じられるかというと、それはまた別問題なのだ。
本作「ライジング!」は、あくまで現実にありえる(と読者に思わせる)程度の写実性で、登場人物の感情が描き込まれているところが素晴らしい。
役者が生来持っている「華」と訓練で習得する技術の問題。
スタンドプレイとチームプレイの微妙な関係。
いくら才能があってもチーム内のバランスでそれが発揮されないことも多々あるという厳しい現実。
その他、かなり綿密な取材からしか出てこないような描写が目白押しだ。
少女歌劇というそれ自体がファンタジックで特種な世界、小劇場という閉鎖空間、作中劇、役者の生理など、読み込むうちに「リアルな描写ってなんやねん?」という思考実験が、様々に展開されていくようだ。
何よりも、文庫サイズ全7巻という程よい長さで完結しているというのが良い。
演劇に関心のある皆さん、「手頃な長さで面白い漫画ないかな〜」とお探しであれば、一度手にとってみてください!
2013年07月06日
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