子供の頃から、図書館が好きだった。
とくに革張りの背表紙の並んだ、人気の少ない百科事典や専門書の一角には身震いするほど興味を惹かれた。宇宙の真相が全てその一角に詰まっているような気がして、(そんな必要は全く無いのだが)周りに人が居ないことを確かめてから、中の一冊をそっと抜き出してみたりした。神話伝説の研究書など、子供の読解力をはるかに超えた本を、背伸びしながらひそかに拾い読んだりしていた。
また、私は子供の頃から漢文のお経を読む機会が多かったのだが(カテゴリ「原風景」参照)その時も「こうしてずっと読み続けていると、いつか漢文の意味がわかるようになって、物凄い秘密が明らかになるのではないか」と想像し、ちょっと怖くなったりしていた。実際、小学校高学年くらいになると、漢字のイメージからなんとなくお経の意味がわかり始めていた。
こういうお経や聖書などの分厚い本の中には、この宇宙の真相が余すところなく記述された、決定版の一冊があるのではないか?
子供の頃の私は、心のどこかでそんな「本の中の本」の夢を追っていたのかもしれない。
時は流れて私は大人になり、昔ほど無邪気ではなくなったので、「決定版の一冊」なるものがこの世に存在しないことは知っている。しかし、それでも「本の中の本」に対する憧れは残っている。
こうした憧れが、私などよりもっと過剰に発現すれば、三蔵法師のように命をかけて経典を求める旅に出たり、出口王仁三郎のように膨大な教典をたった一人で口述してしまったりするのだろう。
私自身はそこまでの過剰さはなく、今のところは一般人として入手・閲覧できる範囲の書物に目を通し、絵に描くぐらいで済んではいる。
このカテゴリでも紹介してきた由来物語によれば、「金烏玉兎」はまさに「本の中の本」としてイメージされていることがわかる。私も断片的にこの書名を目にしたことがあったのだが、あまりに神秘的な紹介の仕方をされていたので、てっきり架空の書物だと思い込んでいた。
ところが驚くべきことに、この「金烏玉兎」は現存しており、しかも現代語訳された安価なものが書店で売られている。
はじめてこの本を書店の棚で見かけた時は、思わずのけぞったものだが、読んでみてすぐに納得できた。
この「金烏玉兎」の三国にまたがる壮大な由来はフィクションであること、実際の著作者は一応安倍晴明の流れを汲む中世の陰陽師たちであり、持てる知識を集大成した百科全書的な書物であるらしいことなど。
来歴がフィクションである点では、有態に言えば「偽書」なのだが、中国の陰陽五行思想や神話、占術、風水説が(かなり日本流のアレンジながら)要領よくまとめ上げられている。いわば、プロ向けのマニュアル本だったのだろう。
この「金烏玉兎」の第一巻冒頭がカテゴリ「節分」でも紹介した「牛頭天王縁起」になっており、第二巻には天地創造神話にあたる物語が紹介されている。
次回より、「金烏玉兎」が語る天地創造神話を紹介してみよう。
2007年03月31日
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