これからのマンガ表現を考える上で避けて通れないのが、スマホや小型タブレットなどの携帯読書端末での鑑賞である。
最近の通勤通学風景を眺めて気づくのは、車内で新聞や雑誌、マンガも含めた書籍などを開く人の数がはっきり減少しているということだ。
かわりにスマホやタブレットで、ゲームや音楽、動画を楽しむ人の姿が目立つ。
ネット環境の発達により、出先で情報収集する場合は、ニュースなどの文字情報ですらこうした携帯端末から入手するのが主流になりつつある。
小説や漫画などの書籍も、徐々に電子出版の点数が増えることで、紙の本から電子情報への移行が進みつつある。
紙の本が完全に消滅することは今後もないだろうけれども、新聞や雑誌などの情報媒体、その場かぎりで楽しむための娯楽作品を中心に、電子出版への流れは今後ますます加速するだろう。
持ち歩くにも蔵書するにもかさ張らない、表示の自由がきく、絶版がない、価格を安く設定しやすいなどの電子出版の利便性は、一度体験すると非常に魅力的である。
私も含めた「紙の本をこよなく愛する人間」は、それでも紙の本にしかない優位性をいくつも数え上げ、本の電子化への心理的な抵抗を示したくなるものだが、多くのライトユーザーにとっては「利便性、経済性」が第一である。
写真の電子化、音楽のネット配信化も、開始当初、ヘビーユーザーの反応は芳しくなかったが、利便性と経済性で瞬く間に一般化してしまった。
同じことは十年と待たず、本の世界でも起こる。
将来的に紙の本は、まだ端末を操作することが困難な幼児向けの絵本、子供向けの書籍や、専門性の高い学術書を除いて、マニア向けのプレミアアイテムといった扱いになるのではないだろうか。
kindleという端末でマンガ読書を重ねてみて、個人的に感じたことを少しまとめておきたい。
まずは端末のサイズについて。
文字の本を読むだけならばスマホも十分使えるのだろうけれども、「絵を楽しむ」という要素があるマンガ読書には、やはり最低でも7インチの画面が必要だと感じる。
このサイズがあれば、だいたい文庫本1ページがおさまる程度の画面が確保されているので、あちこちスクロールする必要がなく、既存の作品を読むのにもストレスが少ない。
ただ、2ページの見開きを一目で見るには、この画面サイズでも文字が判読できないほど縮小せざるを得ない。
通常のマンガ本や雑誌面と同様2ページを一気に表示させ、ストレスなく鑑賞するには、それなりの面積の画面が必要になるが、その場合は移動中に片手で無理なく持てる「携帯端末」という範疇からははずれる。
「紙の本」の斜陽がいよいよ顕在化してきた昨今、今後のマンガはスマホや小型タブレットなどの携帯読書端末で閲覧しやすい形に傾斜していくのではないだろうか。
そうなるといくつかの点でマンガの作画作法に変化が生じる可能性が高い。
今の時点で携帯読書端末に表示させてみると、昔の4段組時代の作品は、B5サイズでの印刷が前提になっているため、さすがに絵も字も小さすぎて読みにくい。
現在主流の3段組作品でも、細かな線による描き込みや、緻密なスクリーントーンによる表現は、意外と見づらい。
線による描き込みやスクリーントーンは、紙に印刷したときにハーフトーン(グレー)を美しく出すため手法だが、液晶画面との相性は今ひとつだ。
また、web作品を閲覧する場合、数十巻に及ぶような長編作品は、掲載も閲覧も難しい。
せいぜい数十ページまでの短編や、最大でも単行本一冊から数冊程度までがストレスなく読むことのできる「ほどよい長さ」ということになると思う。
日本のマンガが主にモノクロであることや、数十巻に及ぶ大長編作が多いことも、全て「安価な印刷の紙の本」という大前提があってこそだ。
もっと言えば、「ページ」という概念そのものが「印刷された紙の本」を前提にしている。
web配信して液晶画面で見るだけで完結し、間に「紙への印刷」を挟まないならば、モノクロである必要はないし、全く違った原稿作りの作法が生まれてくるだろう。
web配信と紙の本への移行を両立させるなら、だいたい以下のような形に落ち着くのではないだろうか。
●原稿は基本的に3段組で、見開きは使用しない。
●線やトーンによる描写はなるべくシンプルに。カラーでもOK。
●コピーやスキャンの利便性、なるべくシンプルな画面作りを考えるならば、原稿用紙は雑誌原稿で主流のB4ではなく、同人誌などで主流のA4サイズでも良い。
●短編がベター。長くても単行本一冊〜数冊程度。
また携帯端末は、横書き文章を縦スクロールで読み進めていくのに向いているので、以下の点も将来的には重要になってくるかもしれない。
●携帯端末での視認性を重視し、翻訳して海外への配信も視野に入れるなら、最初から「横書き、左開き」で制作する。
以上、現時点での覚書として残しておく。
2014年09月08日
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