もう3年前の記事になるが、カテゴリ・マンダラ関連で再掲載しておきたい。
NHK大河ドラマで「平清盛」を放映していた時の記事である。
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「清盛の血曼荼羅』、極彩色をデジタル復元」という見出しの報道を見かけた。
金剛峯寺所蔵の重要文化財で、平清盛が寄進したと伝えられ、おまけに清盛が絵の具に自分の頭の血を混ぜたという伝説まで残っている縦4.2メートル、横3.9メートルの両界曼荼羅図だ。
私も何かの展示で観た記憶があるが、かなり退色して不鮮明になっていたと思う。
それがこの度デジタル復元されたという。
歴史のある建造物や絵画、彫刻を、制作当時の色で再現するという試みは、これまでにも多くなされていて、このニュース自体はとても素晴らしいと思うのだが、ついでにどうでもいいことまで思い出してしまったので、一応記事にしておく。
度々あげつらって申し訳ないのだが、NHK大河「平清盛」のことだ。
2012年4月放映の「第十五回 嵐の中の一門」だったと記憶しているのだが、今回復元ニュースが届いた「血曼荼羅」が、題材になっていた。
清盛伝説の中でも有名なエピソードなので、ドラマでもぜひとも使いたかったのはよくわかるのだが、その描写がなんとも酷かった。
まず、曼荼羅の制作風景がありえない。
ドラマの中では清盛に制作を依頼された絵仏師が、平家の屋敷内で、たった一人で描いているようにしか見えなかった。
しかし、大寺院に寄進する約4メートル四方の巨大な曼荼羅を、絵描き一人がホイホイ出かけて行って、納期内で描くというようなことが可能かどうか、少し考えればわかりそうなものだ。
それなりの人数の、専門資料や画材を完備したチームがなければ制作できるはずがないではないか。
平家の屋敷内での制作したという伝承もあるようだけれども、さすがに「絵師一人」はあり得ない。
ドラマ中では一人の仏師が、けっこう短期間で曼荼羅を描き上げたかのように描写されているのである。
私も神仏絵描きのハシクレとして、いつの日か自分なりの大曼荼羅を描いてみたいという夢は持っているが、一人の人間が大曼荼羅を描くということが、いかに困難なことかはよくわかっている。
その困難をものともせず、CGでコツコツと胎蔵界曼荼羅を描きつづけている人もいて、私は心から賞賛している。
電気仕掛けの胎蔵界曼荼羅を描いてみるぶろぐ
これだけでも「曼荼羅なめんなよ!」と突っ込みたくなるところなのだが、まだある。
ドラマの中で、仏師が完成間際の曼荼羅を前に、発注者の清盛に「仕上げの一筆」をいれるように勧め、清盛もうなずいて、「弟の供養のため」に胎蔵曼荼羅の真ん中の大日如来の顔に筆を入れようとするシーンがあったのだ。
仏師が曼荼羅の中心部分に、発注者とは言えただのド素人の筆を入れさせるなんて、そんなん絶対に
あ・り・え・へ・ん!
確かに「平家物語」には清盛が自ら筆をとったと読める記述があるが、そっち方面のお話しにするならもっと中世的なおどろおどろしい血まみれ呪術方向に振り切るべきだ。
しかもその後、曼荼羅の前で清盛が父・忠盛に殴られ、頭から血を流して呻きながら曼荼羅まで這って行き、したたる血で仏様に彩色し、その様子を母・宗子が「うんうん」と嬉しそうにうなずきながら見守るシーンがあった。
たぶんドラマを観ていない人には↑こう書いても何のことか意味がわからないと思うが、ご安心あれ。
実際に観ていても理解不能です!
というか私の場合は、なんだか
一昔前のダウンタウンのコント
を観ているような気がしてきて、あまりに不条理な暴力とシュールさにちょっと失笑してしまった……
有名な血曼荼羅のエピソードを使いたいが、あまりにぶっ飛んでるのでちょっと現実味を持たせたい。
だから専門の仏師は登場させて、清盛に仕上げだけさせたことにする。
ドラマの中の「真っ直ぐ」な清盛のイメージは崩したくない。
だから「自分で血を混ぜた」のではなく、「事故で血が混ざってしまった」ことにする。
あれもこれもと欲張った結果、こういう中途半端で支離滅裂な脚本になってしまったのではないだろうか。
このドラマの脚本家が史実にかなり無頓着なのはよく分かっていたが、これはもう、史実云々のレベルではないような気がするのである。
今回はたまたま、曼荼羅という私が特に関心のある分野だったので目についたのだが、他にもこのレベルの「ありえなさ」がいくらでもあって、単に私が見逃してしまっているだけなのではないかという疑念も湧いてくる。
当のドラマの方は父・忠盛の死後、清盛の成長とともに多少マシにはなってきている。
部分的に光る所もあるドラマなので、今回記事にした「血曼荼羅」事件以降、根本的な不信感は抱えつつも、なんとか我慢して観ている。
とくに、役者さん達はそれぞれに糞脚本(←ああ、書いてしまった!)の範囲内で、全力投球しているように見える。
何かと批判されがちな主演・松山ケンイチだが、よく考えると脚本の内容を最大限に熱演した結果があれであるとも思われる。
どうしようもない譜面はどう演奏しても名演にはなりようがないのだから、ちょっと気の毒だ。
しかしこのドラマ、史実考証のスタッフとして名前が出てしまっている人は、頭を抱えているのではないだろうか……
2015年05月25日
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