夢を見た。
おれは海へと続く下り坂の上に立っている。
非常に良い傾斜だ。
こんな坂では「海老歩行」ができる。
両手を頭の後ろで組み、両足を肩幅より少し広げてつま先立ちになる。
下腹部を前に突き出して体重を前方へかけると、そのままの姿勢でずずずずずと坂を下ることができる。
体力を消耗しない、まことに合理的な歩法である。
前に体重をかけすぎるとつんのめり、かけ方が甘いと前進しない、高度なバランス感覚の要求される歩法でもある。
前に乗り出す勇気と、暴走しない自制の、調和のとれた精神的ハーモニーが肝要だ。
おれは作法に従ってエレガントに坂を下りていく。
後ろでは友人がおれの真似を試みているが、素人に「海老歩行」は無理である。
友人は何度か失敗して諦め、羨ましげにおれを見ている。
二十分ほど歩行すると海岸に着く。
おれは通常歩行に戻ってぶらぶら散歩する。
一年に一、二度は立ち寄る喫茶店がある。
生活雑貨店も兼ねているので、色気のない物もたくさん置いてある。
年々、雑貨のスペースは拡大し、喫茶スペースは隅に追いやられてきている。
エレガントなおれの居場所が、また一つ消えつつあるのだ。
2015年08月25日
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