中学生の中でおれだけ大人なのだが、なんとかバレずに潜入している。
これからも決して見破られないように、隠密行動をとらねばならない。
一見中学生でも中身は大人なので、機密保持もお手の物だ。
中学生当時果たせなかった無念の作戦を、今何としても遂行するのだ。
授業の終りのチャイムとともに、おれは階段を駆け上がる。
最上階に重要な秘密が隠されているはずだ。
しばらくすると昼礼のサイレンが鳴る。
全校生徒は即刻、前庭に集合、整列しなければならない。
少しでも遅れると、体育教師に殴られたりする厳しい学校なのだ。
しかし大人のおれには何ほどのこともない。
生徒や教師が校舎から出払った今こそ、絶好のチャンスなのだ。
階段を駆け上った果ては、校舎外側に張り付いた非常階段につながる。
更に上ると、校舎の隙間に非常階段は入り込み、中空の頼りない梯子のような状態を進まなければならなくなる。
最後の最後には、下からはちょうど死角になる校舎の壁に位置する、底の抜けた箱のようなコンクリート付属物に到着する。
おれは忍者のように手足を突っ張りながらコンクリートボックス内部に入り、下界の様子をうかがう。
そこからは、校舎の裏手にある広い池を、一望の元に見渡すことができる。

しばらく見ていると、茶色に淀んだ水面を、何かが小石で水を切るように跳ねている。
よくよく見ると、手の部分がトビウオのようになった小さな亀だった。
一匹しかいないようだが、水面を自由自在に跳ねまわっている。
このような珍しい生物を捕まえなければ一生後悔するに違いない。

おれは思い切ってコンクリートボックスから飛び降りる。
ふわりと落下の快感があった後、おれは水しぶきをあげて池に突っ込む。
池はさほど深くなく、膝あたりまでしかなかった。
跳び亀はどこに行ったのかと見まわしたが、水音に驚いたのか姿が見えない。
仕方がないので池を出て、薄暗くなった山道を奥へと向かう。
木々の間を何か光るものが飛び回っている。
よく見ると直径二十センチくらいのUFOだった。
今度こそ捕まえようと、UFOを追って更に山奥へと進む。
途中、なんだか両手がむずむずするのでUFOの灯りに照らしてみると、デカい蝉のような嫌な虫が、何匹も何匹もおれの指先に管を突っ込んで中身を吸っていた。

おれはゾッとして、そいつらを一匹ずつ引きむしり、地面に叩きつけて踏みにじる。
しかし、指先に差し込まれた管だけは、抜けずにそのまま残っていつまでもズキズキ痛んだ。