そろそろ暮れも押し迫ってきた。
12月中続けてアップしてきたカテゴリ夢は一旦小休止。
まだまだネタはあるのだが、夢についてあまり思い詰めると、消耗したり厭世的になったりするので、休み休み行く。
年末年始のお休みに何かまとまった読書をと考えている人も多いと思う。
縁日草子的推薦図書を紹介しておきたい。
今回はヤングマガジンに現在も連載中の人気戦国漫画「センゴク」シリーズ(宮下英樹)を取り上げる。
このシリーズは、織田軍羽柴(木下)家中の仙石権兵衛を主人公とし、その視点と成長を通じて戦国合戦や統治の在り方を描くという構図を持っている。
作者自身も率直に語っているが、連載開始当初は戦国時代についての知識はほぼ白紙に近い状態だったそうで、作品も「戦国時代に舞台を借りた青春もの」と言った趣が強かった。
しかし連載が進むにつれ、この作品は、おそらく作者自身も予想しなかった進化を遂げる。
商業誌の週刊連載という日本特有の過酷なシステムは、数限りない淘汰の中で、時として極少数の作品と作者に「大化け」を促す。
主人公のセンゴク少年の成長とともに、作者の「戦国」への認識は広まり、深まり、作品は恋のロマンスも含めた青春物語という器に収まりきれずに、堂々たる合戦絵巻へと変貌する。
その時点でも質的に申し分なかったのだが、作者の貪欲な知的欲求はさらなる高みを目指し、作中で描かれる戦国武将の所領の広がりと同期して、描かれる内容は進化する。
拙ブログでは以前battleとwarという記事の中で、局地戦(battle)と、より大局的な戦争(war)の違いについてまとめたことがある。
その分類を当てはめるならば、作者の関心は主人公の青春物語からbattleへ、そしてwarや国の統治の在り方そのものへとじわじわ拡大していったのだと思う。
入り口が青春物語であったことは、この作品にとってベストだった。
連載開始当初から「統治の在り方」では、一部のマニアしかついていくことができない。
長期連載に必要な読者数を確保し、読者とともに成長することで、ここまでのレベルの戦国漫画を、毎週読めるという奇跡を起こすことができたのだ。
このシリーズは以下のような構成になっている。
第一部「センゴク」全15巻
第二部「センゴク天正記」全15巻
第三部「センゴク一統記」
第四部「センゴク権兵衛」(最終シリーズ 現在連載中)
外伝「センゴク外伝 桶狭間戦記」全5巻
特に第二部以降は、大人の歴史小説ファンを十分満足させ得るものになっている。
拙ブログでこだわっている石山合戦についていえば、「天正記」で描かれる顕如上人や雑賀衆は、主役クラスの信長とは違う価値観を叩きつける存在として、非常に魅力的に描かれている。
この作品を特徴付けるのは、描かれるどの合戦でも、勝者よりむしろ敗者の方の理に重点をおき、決め細かに感情移入して描く姿勢なのだ。
あえて難を言えばこの作品、作者の興味の持ち方にかなり濃淡があって、凄まじくきめ細かに描かれる人物・事象がある一方で、歴史上かなり重要な人物・事象があっさりパスされてしまうことも多々ある。
期待して連載を追っていたファンとしては、思い入れのある人物やエピソードがあっさり流されると、ちょっと残念な気がする。
石山合戦については、第一次、第二次の木津川合戦などの水軍の描写が抜け落ちていることや、教如上人が本願寺退去のあたりで少ししか登場しないことなどだ。
ライブ感覚重視の週刊連載マンガなので、ある程度ムラが生じるのは、まあ仕方がない。
長大なシリーズの中から今回お勧めするのは、コンパクトに作品の魅力が凝縮された外伝「桶狭間戦記」だ。
若き日の信長の青春の彷徨も、津島という魔都で発達した貨幣経済も、今川家の先進な法による統治も、謀略も局地戦も全て叩き込んだ、流し読み不可能、歯応え抜群、特濃の全五巻である。
2015年12月27日
この記事へのトラックバック
夢シリーズ、本シリーズが特に好きです。
良い年末年始をお過ごしください。
気合いをいれて紹介した本を読んでもらえると嬉しいですね。
蒼天航路はあのラストスパート(?)で意見が別れると思いますが、連載当時好きでよく読んでいました。
「夢」はあと二十回ぐらい記事にするストックがあります。
気長にお付き合いください。