昔読んだ本の記憶が突然甦ってくることがある。
たいていは少年期から学生時代くらいまでの期間に読んだ本だ。
成人以降に読んだ本が、突然ポッカリと浮かび上がってくることは少ない。
感受性の鋭い時期に読んだ本は脳にがっちり刻み込まれているせいだろうか。
手元に置いて繰り返し読んだ本はそもそも忘れていないので、記憶の底から浮かび上がってくる類いの本は、図書館で借りるなどで一回から数回読んだだけの本が多いようだ。
一旦記憶が甦ってしまうと、なんとなくむずむずと落ち着かない心境になる。
もう一度読みたいと思う。
昔読んで面白かった本は、今読むとどうなのか?
やはり面白い場合もあるだろうし、意外と大したことがない場合もあるだろう。
それを確かめてみたくなる。
しかし、手元に本はない。
もうン十年前の本で、覚えているのは内容の大枠と「すごく面白かった」という感情だけだ。
詳しいストーリー展開などは抜け落ちてしまっている。
ひどい場合はタイトルすら忘れてしまっていて、なんとなく「ものとしての本」のイメージや手触りだけの場合もある。
一冊の本ならまだ探しようがあるが、立ち読みした漫画雑誌掲載の読みきり短編で、有名ではない漫画家さんだったりすると、もうお手上げだ。
それでも昨今はネットの発達のお陰で、思い出した本に辿り着ける可能性がはね上がった。
年明けになんとなく思い出した一冊がある。
正月に里帰りしたことがトリガーになったのかもしれないが、小学生の頃に読んだSFの古典的な作品である。
たぶん課題図書か何かだったのではないかと思う。
幸い、タイトルとストーリーの大枠が記憶にあった。
舞台は少年少女が密航したロケットで辿り着いた火星。
そこには驚異の生命体「美しい人」と「恐ろしい人」がいて、地球とは異なる文化・文明を築いている。
タイトルは確か「恐怖の惑星」だった……
気になって検索してみたが、あまり情報はない。
一応アマゾンで古書の取り扱いはあるようだが、今一つ求める本と同一作品かどうか確信が持てない。
さらに探してみると、地元の図書館の書庫に収蔵されているらしいことがわかり、さっそく貸し出し手続きをとった。
確認してみたところ、どうやら以下の本で正解のようだ。
作品と著者に関する情報をまとめてみる。
●「恐怖の惑星」作;ジョン・K・クロス、訳;中尾明、絵;小坂しげる(文研出版)
・イギリス作家による1945年発表の「少年少女むき空想科学小説」
・原題「The Angry Planet(怒りの惑星)」
・イギリスで出版後すぐに評判になり、アメリカでも出版。
・長く読まれて準古典となり、世界中で読まれているそうだ。
・著者は芸術学校を卒業後、保険の勧誘員、旅まわりの腹話術師、ラジオプロデューサー(そもそもテレビのない時代だ)、放送作家のかたわら、小説も書いていた。
じっくり再読してみると、「大当たり」だった。
ものすごく面白い。
挿画も記憶通り素晴らしい。
体裁は児童文学だが、十分大人の鑑賞にも堪える。
ロケットや月旅行が実現するより昔の作品とは思えないほど、緻密に考証されている。
これを読んで「面白い」と感じ取れた小学生の自分を、誉めてやりたいと思った。
これより以前に、手塚治虫や藤子・F・不二雄先生のSF作品を読みふけった読書体験が、それを可能にさせてくれたのだろうと思う。
こういう作品が今現役で書店の児童文学の棚に並んでいないことを、非常にもったいなく思う。
同時に、こういう本がちゃんと図書館の書庫には保管されていることを、嬉しく思うのだ。
2016年01月22日
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