術後二回目の夜、ろくに身動きできないベッドの中。
夢を見た。
難病になってしまった。
まだ二十歳そこそこだというのに、これではお先真っ暗だ。
病んだ私は、とある山里へ向かう。
遠い親戚の住む山里で、子供の頃、何度か泊まりに行ったことがある。
里にはけっこう大きな神仏習合風の神殿がある。
その参道周辺は、昔の街道筋が当時のまま残ったようににぎわっている。
確か子供の頃、ここにも連れてきてもらったことがあり、とても楽しかったのを覚えている。
病み疲れながらふらふらと神殿に参拝する。
こちらからとくに説明もしていないのに、神官の人が招じ入れてくれる。
奥の間には大きな囲炉裏のような古びた木枠がある。
木枠の両側には「取り次ぎ」の神職二人が向かい合わせに座っている。
木枠の中は浴槽のようになっていて、きれいな灰と清水を溶かした泥が満たされている。
私は着衣のまま泥の中に横たわる。
神職二人がしばらく祭文のようなものを唱え、取り次ぎをしてくれる。
それが終わると、華やかな手拭いをかぶった若い女性二人に助け起こされ、別室で清めと着替えをする。
気分はいい。
病は癒えたのだろうか。
華やかな柄の手拭いを何種か示され、好きなものを選ぶように言われる。
私は黄色のちょっと沖縄風の柄のものをもらう。
女性二人に街道筋のような参道に連れ出される。
道幅の広い通りでは、たくさんの人が踊っている。
五色の手拭いをくるくる巻いたり、回したり、肩にかけたり、頭にかぶったりして、盆踊りのような感じだ。
見よう見まねで躍りの列に入る。
ひとしきり踊ると、昔風の大きな商店に通される。
棟梁と呼ばれる壮年男性が、笑顔で私を招き入れる。
黒い法被姿で恰幅がよく、眉が黒々と太い。
往年の昭和スターといった雰囲気だ。
「安心せい。頼れ、もたれろ!」
呵呵大笑しながら、棟梁は言った。
「すじが良さそうだ。ここの村芝居の役者をやらんか?」
山里の賑わいを眺めていると、それもいいなとふと思う。
2016年06月12日
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