吐き気と腹痛が始まったとき、「ああ、また例のやつか」と思った。
昔からよく胃腸炎にはかかってきた。
腰痛と並ぶ持病として、このブログでも度々記事にして来た。
胃腸炎はありふれた病気で、いわゆる「お腹の風邪」だが、症状が重くなる場合もけっこうある。
最近の例では、タレント医師の西川史子さんが急性胃腸炎で入院し、番組を休んだニュースなどもあった。
私の場合は1〜2年に一回、季節の変わり目、仕事などが一段落した心の隙間をねらうように、胃腸炎がやってくる。
入院するほどではないが、数日間激しく苦しむのはわかっている。
同時に、数日間しのげばなんとかなることもわかっている。
今回もそんな感じで進むのだろうと、これからしばらく続くであろう苦痛にうんざりしながらも、ちょっとたかをくくっていた。
かかりつけのお医者さんにも「ああ、アレか」という感じで、点滴の応急処置と薬の処方をしてもらった。
幾分症状は落ち着いたものの、それでもなかなか吐き気と腹痛は収まらなかった。
発症してから四日目、まだ吐き気と腹痛は続いた。
さすがにおかしいと気付き、思い当たるところもあったので、救急で外科を受診した。
そこで診断された病名は「鼠径部ヘルニア」だった。
一口にヘルニアと言っても色々な種類があるが、私が発症したのは俗に言う「脱腸」というやつだ。
腹膜に包まれた状態の腸が、内側からの腹圧によって筋肉の外側にはみ出してしまう病気だ。
私の場合は、長時間にわたる胃腸炎の苦痛でおかしな具合に腹圧がかかり、腸が押し出されてしまったということらしい。
ヘルニアで起こる症状がまさに「吐き気と腹痛」ということで、胃腸炎との境目がよくわからなかった。
結果的には「けっこう重症のヘルニアを数日間放置した」という状態になってしまい、緊急入院、緊急手術が即決した。
さらに悪化すると、はみ出した部分の腸の血流が滞り、腐ってしまったりするそうだ。
私の場合そこまでには至らなかったのが不幸中の幸いで、タイミング的には「ぎりぎり間に合った」ということだ。
今回お医者さんに聞いたところでは、鼠径部ヘルニア(いわゆる脱腸)は、わりと多い病気らしい。
病気としてはよくある部類に入るのだが、「ちょっと聞いとくんなはれ、わたし脱腸ですねん」などと言ってまわる類いの病気ではないので、あまり身の回りで聞かないかもしれない。
ぶっちゃけて言えば、患部がオチンチンあたりなので、なかなか話題にしにくいのだ。
軽症で済んでいるうちなら日帰り手術も可能なのだが、日常生活に支障がない程度だとなかなか受診する気にならない。
結果、症状が悪化してから慌てるというパターンがあるそうで、私がまさにそうだった。
私が「これ、ちょっとヘルニアっぽいかな?」と自覚し始めたのはいつ頃のことだったか。
数年前にはなんとなくそう感じていたと思う。
少し「ポコッ」という感じで出ているのを自分で押して戻したりしたことはあった。
苦痛や日常生活の支障を感じることはほとんどなくて、少し出ていても一晩寝たら戻ったり、入浴したら戻ったり、押したら戻ったりという感じで、何日も出っぱなしということはなかった。
全然出ない期間が数ヵ月とか一年続くこともあったので、あまり深刻に考えられなかった。
感覚的に、慣れてしまっていた面もある。
しかし今思えば、この段階で受診していれば日帰りで済んでいたのだ。
自分で戻すのも、勝手に戻るのも、サポーター等で押さえるのも、全ては「応急処置」とか「その場しのぎ」に過ぎない。
さっさと治療しておけば仕事のスケジュールと合わせながらコントロールできたものを、胃腸炎と併発することで思いもかけず重症化し、仕事に穴を開けてしまった。
アホである。
私は今、恥を忍んでこの記事を書いているけれども、脱腸ということはなんら恥ずべきものではない。
病気自体は、けっこうありふれた体の状態に過ぎない。
本当に恥ずべきは、うすうす自覚しながら治療を先送りし、症状を悪化させた己の愚かさの方だ。
私と同じように「なんとなく鼠径部ヘルニアっぽいかな?」と思いながら、日常生活にさほど支障がないとか、ちょっと恥ずかしいなどの理由で受診していない人は、たぶん世の中にいっぱいいると思う。
悪いことは言わない。
悪化しないうちに診てもらった方がいいです!
仕事が休めないのは皆同じ。
日程をコントロールして一日二日休むか、想定外のタイミングで一週間以上休んで仕事に穴を開けるか、大人としてどちらを選ぶべきかは自明です。
この記事を読んだ皆さんが、私の失敗を他山の石とされますことを、切に願います!
(つづく)