高二の二学期が終わりに近づき、そろそろ進路を決定しなければならない時期になって、私は思い切って美術系志望に切り替えることにした。
私立の中高一貫、中堅進学校の生徒としては、変わり種ということになる。
絵を描くことは子供のころから大好きで、中学高校でも自分なりにずっと描き続けていた。
とくに高校に入ってからは「一人美術部」として、文化祭の展示で教室一つ分を一人で埋めるため、描きまくり、作りまくり、生徒会や他の部活で必要なイラストも一手に引き受けていた。
美術系志望の大前提として必要なのが、才能云々以前に「自発的に毎日のように描いたり造ったりしているか」という部分だ。
このカテゴリ「妄想絵画論」でも、以前に一度そのような主旨の記事をアップしたことがある。
教わる前から描いているか?
私の場合は、悲惨な通知簿の中でも美術だけはほぼ満点に近く、全教科平均点を5点ほど底上げできたので、留年回避のための「奥の手」になっていた。
私の出身校は年間の平均40点以下の科目が2つ、または全教科平均50点以下であれば留年という規定があり、前者の規定を気にするあまり、後者の規定にひっかかってダブるケースがけっこう多かったのだ。
どの科目も規定の40〜50点あたりをフラフラと低空飛行していた私も、この「全教科平均50点以上」という規定がかなり危なかったのだが、美術で5点、音楽で3点、国語で2点ほど平均点を「上げ底」できたので、なんとかダブらずに済んでいた。
勉強の方はさっぱりだったが、絵を描くことだけは楽しくて、毎日、何時間続けても苦にならなかった。
しかしそれは全て我流でやっていたこと。
それなりに「描ける」という自負はあったけれども、いざ美術系受験を決めてみると、「実技試験で点の取れるデッサンができるのか」ということは、全く未知数であることに向き合わなければならなかった。
いわゆる「頭が良い」ということと、「試験で点が取れる」ということの間には少しズレがあるけれども、美術の分野でもこと入試に関して言えば、「点の取り方」のようなものが当然あるのではないか?
そのように洞察することができたのは、劣等生とは言え中堅進学校に身をおいていたことの功徳だったと思う。
まずは、「美術実技の採点基準」というものを学ばなければならない。
とりあえず受験指導もやっている近所の絵画教室に問い合わせてみると、「自分で描いたものを持って来週面接に来るように」ということになった。
さっそく私は、放課後の美術部の時間を利用して、石膏デッサンをスケッチブックに描きためた。
採点基準が全くわからないからには、とにかく数を描いて「やる気」と「手の速さ」を示すことがまずは必要だと判断したのだ。
そして一週間後、絵画教室へ。
教室のみんなが興味津々で見守る中、先生との面接が始まった。
私は緊張の中、覚悟をきめてスケッチブックを先生に手わたした。
どんな評価が返ってくるか、まったく分からない。「ぜんぜん話にならん!」と、ボロカスにいわれることも覚悟の上だった。
新入りに対して、まずはガツンと鼻っ柱をへし折る。
私は剣道少年でもあったので、「道場」とはそう言うものだと認識していた。
先生がパラパラとスケッチブックをめくっていく。無言なのでどんな感想を持っているのかうかがい知ることはできない。
まわりではその教室でデッサンを学んでいる中学生や高校生の「先輩」たちが、「新入りのヤツはなんぼほどのもんじゃ?」という感じでこちらをながめている。
先生は一通りスケッチブックをめくり、さらに何度か見なおしてから、ようやく口を開いた。
「なかなかよく描いてきたけど、正直言って、これだとまだ点数はつけられないと思う」
それを聞いた私は、ほっと一息ついた。
決して「良い評価」ではなかったが、「道場の新入り」に対する言葉としてはかなりマシな部類に入ることを、知っていたのだ。
先生は続けた。
「出来はともかく、真面目に石膏デッサンを描きためてきた姿勢がいい。最近の子は描いたものを持ってくるように言うと、マンガやイラストみたいなのを持ってくる子が多い。そういう子に一年やそこらで受験向けのデッサンを教えるのは難しいが、君は地道に頑張る気があるようだ」
こうして私は、それからの一年間、その絵画教室に通って「受験勉強」をすることになった。
土日の週二回、二時間ずつの教室と、他に宿題として自宅で一時間半〜二時間かけて描く鉛筆デッサン。
合計すると最低でも週に8時間ほどは受験向けのデッサンの練習に費やす計算だ。
私の場合は美大・芸大ではなく、教育学部系の美術科志望である。
他の学科にも時間を割かなければならないので、大体このくらいの時間配分になる。
教育学部の初等科や、理系の建築科や工業デザイン系の志望で、配点がもっと少なめの美術実技が課される場合は、学科でほとんど合否が決定するので、ここまでデッサンに時間を割く必要はない。
たとえば一次試験終了後、完全に志望学科が決定してから学校の美術の先生に相談し、「短期間で塞げる穴は塞ぐ」という程度でもいいだろう。
逆に本格的に芸大、美大を受験するならば、もっと早くから準備を始めなければならない。
とくに高二から高三の一年間は、より極端なスケジュールで実技対策メインで過ごさなければならないだろう。
日常的なスケジュールの中に組み込んで、無理なく確実に習得ペースを維持できるような環境を作り上げることが、受験対策では大切になる。
2016年11月22日
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