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2017年03月23日

本をさがして7

 90年代、一つのピークを迎えていた水木しげるとのコラボという点では、今や「もう一人の妖怪御大」と呼ぶべき荒俣宏の活躍も見逃せない。
 荒俣宏の独自性は、図版の収録された稀覯本への偏愛と、膨大なコレクションにある。
 博物学というジャンルの面白さを広く一般に紹介した本が、以下のもの。


●「増補版 図鑑の博物誌」荒俣宏(集英社文庫)

 他にも「図鑑」や「図像」についての著作は多数あるが、そうした分野の仕事の集大成が以下のもの。




●「世界大博物図鑑」荒俣宏編(平凡社)
 古今東西の図鑑から極上の図版を集成したシリーズ。
 ほんの一昔前は、こんな贅沢な本作りが可能だったのかと、隔世の感を覚える。
 2010年代も半ばを過ぎた今、出版の斜陽、とくに紙の本の凋落はもはやとどめようもないが、当時はまだまだ余裕と夢があったのだ。
 この大部の大図鑑、さすがに自分で購は入できなかったが、図書館で繰り返し開き、美麗かつ珍奇な図版の数々に酔いしれたものだ。

 思えば私は、子供の頃から図鑑が大好きだった。
 学研の子供向け学習図鑑を何冊か買ってもらって、何度も飽きずに眺めていたのだが、特に気に入っていたのは以下の二冊。


●「人とからだ」
●「大むかしの動物」
 前者は今から思うと生ョ範義との出会いの一冊だった。
 後者は恐竜に限らない古生物全般を時代順に扱った一冊で、地球の生命史をパノラマ図で順に紹介する構成が素晴らしかった。
 現在は新版に切りかわってしまい、図版の魅力がちょっと減じたように感じられる。
 もちろん昔馴染みの本への愛着や「思い出補正」もあると思うが、とくに「大むかしの動物」の方にパノラマ図が減ってしまっている点はマイナスだと思う。
 単に古生物をバラバラに並べるだけでも「知識」の紹介は出来るけれども、それではカタログでしかない。
 その時代ごとに生態系を展開して見せるパノラマ図には、「全体像」を伝える効果がある。
 売れ筋の恐竜図鑑は、実質「恐竜カタログ」になりがちなのだが、だからこそややマイナーな古生物全般を扱った図鑑は、もっと「進化という概念」を伝える本であってほしいのだ。
 学習図鑑なので情報は更新しなければならないのはわかるが、子供の知的好奇心を喚起するには、バラバラの知識を統合する世界観の要素も大切だと思うのである。

 子供の頃の私は、こうした図鑑や、「進化」そのものを扱った児童書を熱心に読み耽っていた。
 もちろん恐竜も好きだったが、恐竜以前の甲冑魚や哺乳類型爬虫類、恐竜と同時代の翼竜や魚竜、首長竜、原始的な哺乳類、恐竜が滅びた後の哺乳類など、絶滅生物全部が好きだった。
 当時私が好きだった本の中から、現在でも入手可能なものを紹介してみよう。


●「先祖をたずねて億万年」井尻正二、伊東章夫(新日本出版社)
●「いばるな恐竜ぼくの孫」井尻正二、伊東章夫(新日本出版社)
●「ひれから手へ‐進化の冒険」アンソニー・ラビエリ(福音館)

 今はもうバリバリの文系人間だが、子供の頃の私はけっこう科学少年だったのだ(笑)

 70年代は怪獣映画や特撮番組の最盛期だった。
 怪獣の多くは着ぐるみで撮影されていて、尻尾を引きずった二足歩行のスタイルは、当時の恐竜の生態再現図をベースにしていた。
 恐竜の持つ「尻尾を引きずった鈍重な巨大生物」のイメージが更新され始めたのが、80年代半ば以降だったと記憶している。
 その頃から、尻尾を跳ね上げ、体幹部を地面と水平に保持しながら俊敏に動作する新しい恐竜像が、再現イラストでも多く採用されるようになっていった。
 90年代に入ってから更に恐竜研究は進み、鳥類との密接な関係など、現在につながる要素が出揃っていき、世の中の「恐竜のイメージ」を激変させた映画「ジュラシックパーク」が公開されたのが1993年である。
 タミヤの1/35恐竜プラモがリニューアルされたのも、この頃だったはずで、それぞれの時代の「恐竜のリアル」の変遷が見て取れる。


●タミヤ 1/35 恐竜シリーズ No.03 ティラノサウルス
●タミヤ 1/35 恐竜世界シリーズ No.02 ティラノサウルス 情景セット

 そうした世相を受け、私は子供時代以来久々に古生物に対する熱がよみがえって、関係する書籍を読み漁った。
 中でも最も知的興奮を覚えた書き手が、サイエンスライターの金子隆一だった。


●「新恐竜伝説―最古恐竜エオラプトルから恐竜人類まで」金子隆一(ハヤカワ文庫NF)

 90年代には同氏が主導した古生物雑誌も刊行され、毎号スリリングな研究やイラストが掲載されていた。
 確か、学研の科学雑誌の別冊としてスタートし、後に独立したシリーズになって13号くらいまで出ていたはずだ。


●「恐竜学最前線」
 
 これらの本は既に二十年前のものなので、さすがに内容自体は古くなりつつあるが、「知的興奮を呼び覚ます」という点では、今もその価値は変わらない。
 私が子供の頃に読んだ70年代の古生物児童書が今読んでも面白いのと同じである。

 今から考えると、私は古生物学や生物進化という概念を、「精緻で魅力的な創世神話」として楽しんでいたのだと思う。
 だからこそ、当時ハマっていた宗教や民族の読書と並行して、貪欲に読み漁ることができたのだ。
 このブログでも、ずっと以前から「カテゴリ:進化」みたいな形でカタッてみたいと考えていたのだが、まだ果たせていない。
 私の古生物趣味の一端は、ティラノサウルスのペーパークラフトとしてチラ見せしたことがある。
 この展開図はけっこうあちこちで、ワールドワイドに紹介していただいている。
 季節のおりがみと共に、ブログの本筋ではないけれどもアクセスの多い人気コンテンツになっているのだ(苦笑)
(続く)
posted by 九郎 at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 90年代 | 更新情報をチェックする
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