私の音楽の聴き方は、その時その時波長の合ったものをヘビーローテーションで1〜2か月聴き狂うというパターンが多い。
常時音楽無しではいられないほど音楽好きではなく、自発的には何も聴かないという時期もある。
ただ、何かを創っている時は、日常の意識からチューニングを変える「儀式」として、ヘッドフォンを装着することが多い。
そういう時に使える音源は限られていて、ここ十年ほどあまり「新規参入」してくることはなかったのだが、この2か月ほど久々に新しい音源がリストに加わっていた。
バンド「THE冠」のベスト盤2枚である。
●BEST OF THE冠『肉』
●BEST OF THE冠『骨』
とくに今は『骨』盤を聴き狂っている。
このバンドについては何年か前、一度記事にしたことがあった。
先走る才能に追い付くということ
過去記事と重複するが、THE冠を率いる冠徹弥(かんむり てつや)について、略歴を紹介してみよう。
1971年生まれ、京都出身。
1991年にバンド「So What?」結成、95年メジャーデビュー。
このデビューにはたしか聖飢魔Uが関わっていたはずで、信者だった私は当時から冠の存在は知っていたことになる。
2003年にはSo What?解散。
2000年代半ばごろからちょっと自虐的な「ヘビメタあるある」を、超絶ハイトーンシャウトにのせて歌いあげるキャラクターがハマりはじめ、演劇などにも活動の幅を広げていく。
私はこの時期からYouTube等で再発見。「ああ、まだ頑張ってたんだなあ」という感慨とともに、あまりのおもしろさに密かに応援しはじめていた
そして2010年、当時まだTVから身を引いていなかった島田紳助に見出され、「行列のできる法律相談所」に出演。一気に知名度を上げる。
マンガ「北斗の拳」に出てくるラオウみたいな鉄兜をかぶった、おもろいヘビメタあんちゃんの姿が記憶に残っている人も多いことだろう。
2013年には自身が「最高傑作」と推すアルバムが出て、私も「なるほど、これは凄い!」と感心しながらレビューを書いたのが、上掲の過去記事である。
以下、当時の感想を再録してみよう。
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長らくマニアックな「ヘビメタあるある」で楽しませてもらってきたのだが、ここにきて冠徹弥は完全に一皮むけた。
マニアだけに通じる閉ざされたネタの世界から、アラフォー男子感涙の「アラフォーメタル」にシフトすることで、作品の普遍性が飛躍的に増したのだ。
相変わらず安定のハイトーンシャウトにのせて歌われるのは、同世代の誰もが日々感じる怒りや切なさで、その組み合わせに全く違和感がない。
冠徹弥はデビュー当時から才気溢れるメタルボーカリストだった。
しかし、どこかそのあふれる才能だけが先走っているようで、観ていて非常にもどかしかったのだが、長い長い雌伏を経て、ついに歌うべきモチーフや世界観にきちんと出会ったのかもしれない。
マンガ「バキ」のセリフ回しを借りるなら、「溢れる才能に冠徹弥がついに追いついた!」ということになると思う。
いや、まだまだこんなもんではない。
冠徹弥にはまだこの先があるはずで、アルバム「帰ってきたヘビーメタル」は、その輝ける序章になるに違いないのだ。
●帰ってきたヘビーメタル
そこそこ年くってもまったく衰えない超絶シャウト!
右肩上がりで今現在が全盛期!
すべての同世代のバカを背負って、突っ走れ!
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あれから4年、冠徹弥は期待通り「アラフォーメタルのその先」を切り開いていった。
昨年発売されたベスト盤二枚は、ライブ等でも歌い続けられてきた過去の楽曲を、ほとんど新曲の如くリニューアルし、THE冠の「今」の境地を存分に発揮した内容になっているのだ。
声も歌詞も楽曲も、年齢を刻んだ自分とがっちり嚙み合わせ、まさに今歌うことにリアリティのあるラインナップになっている。
衰えを見せぬハイトーンシャウトは、聴き手の脳に強烈に突き刺さるのである。
四十路を超えた己をしっかり踏まえるならば、「政治的」なプロテストにも骨肉が詰まり、上滑りしない。
たとえば「骨」盤に収録された「糞野郎」という曲がある。
上掲動画は2013年の初出時のバージョン。
子供の頃の暗い思い出を素材にしながら、かなりわかりやすいプロテストソングになっていると思うのだが、発表後「誤解」がけっこうあったという。
歌詞そのままに「うんこ漏らした子供dis」と受け取ったリスナーがいるというのだ。
そんなリアクションを受け、今回のベスト盤では「誤解」の余地が生まれぬよう、歌詞が一部差し替えられ、政治批判はより鮮明になった。
私に言わせればそのような差し替えは「野暮」であり、読解力のないアホに合わせて表現のレベルを下げるべきではないと思う。
今回の改変については「音楽に政治を持ち込むな」というような、私とは逆のベクトルの批判意見もあるだろう。
しかし、それでもあえて改変に踏み切った冠徹弥の選択も、それはそれで理解できる。
たかがヘビメタ、その中でもとくに虐げられたジャパメタの、マイナーな一楽曲の歌詞について、あれこれ青臭く語る意欲を沸かせるのが、今のTHE冠の境地なのだ。
「舐められて死ねるかいな!」
「民よ怒れ! はめられた おのれ貴様 主は我々だ!」
「生きる! 生きる! 屈辱の日々、終りを告げるまで!」
一曲に何か所かは必ず「刺さる」詞があり、「刺さる」シャウトがある。
夕方学校帰りにMTVを眺めていた私の年代だと、社会派フォークは歴史の中の出来事だし、若い者のHIPHOPには今一つ乗り切れない。
おのれの魂が求めるのは、思春期に聴いていた音であり、同じように年齢を重ねた者の言葉だ。
THE冠のアルバムは、まさにド真ん中のストライク。
笑いのその先の涙、ネタを超越したカタルシスがそこにある。
恥ずかしながらヘビメタ、今後も贔屓にさせてもらいます!

2017年07月17日
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