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2017年07月22日

暴走する石森DNA

 子供の頃、アニメや特撮番組を低年齢向けマンガにした作品が好きで、よく読んでいた。
 70年代、そうしたコミカライズ作品制作が、一つのピークに達していた時のことである。
 当時はあまり厳密に「原作と派生作品」の関係は意識しておらず、マンガのTV化もTVのマンガ化もとくに区別はしていなかったはずだ。
 色々区別なく読み進める中で、たまに少々雰囲気の違うマンガが紛れ込んでいることには気付いていた。
 一応TV番組と同一タイトル、同一基本設定でありながら、内容が「TVとちがってちょっと怖い」感じがする一群のマンガ作品があったのだ。
 最初に意識したのは「仮面ライダー」あたりだったと思う。
 その頃の私は前回記事でも紹介した山田ゴロ版を愛読していたが、「原作者」石森章太郎が自らペンをとったバージョンも読んでいた。
(石森章太郎は1985年以降「石ノ森」表記になるが、今回記事中では扱う作品の多くが「石森」時代のものであるため、こちらで記述する)
 山田ゴロ版も低年齢向けマンガとしてはかなりショッキングな描写が含まれていたが、それでもTV版ライダーシリーズの「枠」は守ってある感じはした。
 ところがTV版の初代ライダーとほぼ同時期に執筆された石森マンガ版は、子供心にも「これは別物!」という印象を持ったのだ。


●「仮面ライダー」全三巻(中公文庫)

 まず絵柄がちょっと怖かった。
 当時の石森マンガの中ではかなり描き込まれた描線で、画面も暗く、恐怖マンガのようなダークな雰囲気が漂っていた。
 内容も「仮面ライダー」という素材を使いながらも、シリアスなSFとして真っ向から描かれており、文明批判的な描写も多く、なんとなく「大人向け?」と思ったのを覚えている。
 70年代の石森章太郎は多くのTVヒーローの「原案」を担当しながら、自ら執筆したマンガ版では「独自展開でシリアスなSFを描く」というパターンで数々の作品を世に出している。
 仮面ライダーと同様、「暴走」とも思えるほどのTV版からの逸脱ぶりで強烈な内容になった作品は数多く、「人造人間キカイダー」や「イナズマン」「ロボット刑事」あたりは今読んでもかなり面白い。


●「人造人間キカイダー」全四巻(秋田文庫)

 そうした路線の集大成ともいうべきなのが、87年から執筆された「仮面ライダーBlack」だろう。
 同名のTV版とはライダーのデザインもストーリーも全く違う、堂々たるSF巨編になっている。


●「仮面ライダーBlack」全三巻(小学館文庫)


 70年代には子供心に「ちょっと違う、怖い」と感じたTVと同タイトルのマンガ版は、他にもたくさんあった。
 あとで気付いたのだが、その多くが石森章太郎の「弟子筋」にあたるマンガ家によるものだった。
 名前を挙げるなら、永井豪や石川賢の作品である。
 永井豪は石森のアシスタント出身、石川賢は永井豪と共にダイナミックプロで活動しており、作品に「暴走する石森DNA」のようなものが受け継がれているのかもしれない。

 70年代当時の永井豪も全盛期と呼ぶべき状態にあり、「デビルマン」「マジンガーZ」「グレートマジンガー」「グレンダイザー」「キューティーハニー」等、多数の原案とマンガ版を担当していた。
 中でもマンガ版「デビルマン」には才能と狂気が結晶し、極めて異常にして高密度な作品になった。
 戦後日本マンガの一つの到達点と言っても過言ではないこの作品については、記事をあらためて紹介する。

 石川賢の描くマンガ版も異彩を放っていた。
 私が石川賢の作品と始めて出会ったのは、小学校低学年の頃だった。
 当時の私は仮面ライダーと共にウルトラマンシリーズにはまり切っており、怪獣図鑑をはじめ、様々な書籍や玩具を集めていた。
 その中に「ウルトラマンタロウ」を漫画化した単行本があり、作者が石川賢だったのだ。
 子供心に私は、何か見てはいけないものを見てしまったような恐怖とうしろめたさを感じつつ、石川版「タロウ」の暴力と怪奇と哲学の世界に耽溺した。
 今読むと「ウルトラマンを踏み台に石川賢をやっている」としか見えなかったりするのだが、それこそが石川賢の「芸風」なのだ(笑)


●「ウルトラマンタロウ」石川賢

 永井豪が原案を担当し、TVアニメにもなった「ゲッターロボ」「ゲッターロボG」は、同じダイナミックプロの石川賢がマンガ版を担当した。
 こちらも手加減抜きのハードな描写で、70年代スーパーロボットマンガの最高峰と言ってよいだろう。


●「ゲッターロボ」「ゲッターロボG」石川賢

 このシリーズは、後に執筆された「ゲッターロボ號」で再起動され、「真ゲッターロボ」「ゲッターロボアーク」と、2003年まで描き継がれた。
 スケールの大きなサーガとして石川賢の代表作に成長することになったのである。

 石川賢は他ジャンルの原作をマンガにするコミカライズの名手、それも原作の忠実な再現ではなく、独自アレンジを得意としていた。
 ある意味「原作レイプ」と呼ばれかねない作風なのだが、そもそも選択される原作が独自アレンジごときではびくともしないパワーを持っているケースが多かったので、そうしたアプローチが批判対象になることはあまりなかった。
 原作の強烈な「枠」を石川ワールドで食い破るカタルシスこそが、作品の魅力だったのだ。
 80年代以降に描かれた原作付き作品の力作には、例えば以下のようなものがある。


●「魔界転生」
●「神州纐纈城」

 石森、永井、石川と、子供の頃から「暴走」タイプの作品を読み込んできたので、今でも私はこの種の作品が好きだ。
(続く)
posted by 九郎 at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | サブカルチャー | 更新情報をチェックする
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