フィギュアスケート解説者の村主章枝さんの、バラエティ番組での以下のコメントが話題になっている。
「スケートシューズは進化していて、羽生くんが履いているのは私の頃より1kg以上軽い。羽生くんのシューズを当時の伊藤みどりさんが履いたら5回転ジャンプできます!」
村主さんのキャラクターもあって、おバカ発言扱いにする向きもあるようだが、ある程度以上の年齢層には、普通に納得してしまった人も多いのではないだろうか。
すなわち、現役時代の伊藤みどりさんの活躍を、リアルタイムで目の当たりにした世代である。
私もそうだ。
とくにあのトリプルアクセルの衝撃は、今でも鮮明に心に焼き付いている。
今でこそ、あの大技を繰り出せる女子選手は何人も出てきたが、パイオニアの迫力はやっぱり凄かったのだ。
女子のトリプルアクセルと言えば、近年では浅田真央さんのものが印象的だったが、伊藤みどりさんのそれとは、また「別物」だった。
(念のために書いておくと、技の優劣を述べているのではなく、技から受ける「印象」のことを述べている)
浅田真央さんの技からは、ディズニー映画「ファンタジア」のワンシーンみたいな、重力から解放された軽やかさを感じた。
もちろん浅田さんご自身にとっては、血の滲むような練習の果てに体得した難度の高い技だったはずだが、演技から主に感じるのは、夢の中の出来事のような美しさだった。
往年の伊藤みどりさんのトリプルアクセルは、全く違っていた。
まず、長い助走から繰り出されるジャンプが信じられないくらい高く、そして長い滞空時間の中での回転の迫力が凄まじかった。
その回転エネルギーを薙ぎ払うように着氷し、技の決まった瞬間は、もう本当に「凄い!」の一言だった。
未見の人は、ぜひ動画サイトででも検索してみてほしい。
似ているものと言えば、私の場合は真っ先に「波動砲」が浮かぶ。
エネルギー充填に時間を要するが、その分の「溜め」と一撃必殺の破壊力が、観る者にカタルシスを感じさせるのだ。
と、ここまで書いて気付いたが、伊藤みどりさんの現役時代を知らない世代にあの衝撃を説明するのに、「波動砲」では分かりやすい喩えになっていない(苦笑)
よろしい、では若者向けに「ドラゴンボール」の喩えで書き直してみよう。
今と比べてずっとずっと重いシューズで、同時代の男子選手まで驚愕するようなジャンプを跳んでいた伊藤みどりさんは、修行用の重りを付けたままで強敵と闘っている悟空のような状態だったのだ。
横で見ていたクリリンとかが「あいつ、こんな時まで!」とビビる、あの状態である。
女子で世界最初にトリプルアクセルを跳んだ点でも、最初にスーパーサイヤ人の壁をぶち破った悟空に似ている。
……少しは伊藤みどりさんの凄さが伝わっただろうか?
村主さんのコメントも、ウケ狙いというより、ご本人は半ば以上本気で言ったのではないかと思ってしまう。
フィギュアの選手は歴代、キャラクターが立っていて本当に面白い。
心と身体の関係について、「表現」ということについて、いつも考えさせてくれるのである。
2018年02月19日
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