昨日も猛暑、今日も猛暑、そして明日もきっと猛暑。
2年後のオリンピック灼熱地獄へむけて、カウントダウンは地味に進んでいく。
猛暑とスポーツ。
そんな組み合わせを目にすると、高校生の頃の記憶がよみがえってくる。
わが母校、中高一貫超スパルタ中堅受験校の体育祭は9月半ばであった。
夏休み明けのタイミングで、文化祭とも同一週内の開催である。
今考えると明らかに無茶なのだが、そこは超スパルタ受験校。
準備に手間のかかる大型行事を同時期開催でバタバタ済ませ、ついでに夏休み気分も一掃して、お勉強に専念させようという「親心」だったのだろう。
9月上旬、朝夕はともかく、昼間はまだ真夏である。
炎天下の校庭で、体育祭の練習は敢行される。
何を練習するかと言えばとりあえず「入場行進」で、これがまたかなりキツくて、一部で「死の行進」と呼ばれていた。
入場ゲートからマーチに合わせて縦横斜め一糸乱れず行進し、先生が仁王立ちになっている朝礼台に「かしら右」で敬礼してから所定の位置に並んでいく。
校庭には大型スピーカーから流れるマーチと共に、「ザッザッザッザッ」という足音、そして時折体育教師の怒鳴り声だけが響いている。
たるんだ行進態度には、もちろん鉄拳制裁が待っている。
旧日本軍である。
ナチスである。
北朝鮮である。
ヒザの上げ方から指先まで、地獄の極卒のような体育教師のお眼鏡にかなうほど、本当に「一糸乱れぬ」レベルになるまで、練習は延々続く。
もう一回確認しておくと、9月上旬の炎天下の校庭である。
生徒は暑さと疲労とストレスに、半死半生まで追い込まれる。
それでも成績別クラス編成の上位クラスの生徒たちはそれなりに要領よく「合格」をもらい、死の行進から脱出していく。
問題は私も所属していた最下位クラスである。
そもそも学校行事に対するモチベーションは極めて低く、そろいもそろってマイペースなので協調性は極めて低い。
一方、理不尽で意味不明な練習に対する反発だけは極めて強い。
行進の隊列が、きれいに揃うわけがないのである。
行進練習にもっとも不向きなクラスは、必然的にもっとも長い練習時間が課されることになる。
練習時間が伸びたところで、クラスのメンバーが変わるわけではないので成果は一向に上がらない。
結局わがクラスは時間内に合格がもらえず、放課後居残りで練習しなければならなくなった。
いくら居残ったところでメンバーは同じなので、全くやる気も協調性もないままである。
一瞬だけ頑張ってビシッと合わせれば放免されるのだが、それだけはどうしても無理。
そんな愛すべきアホどもの「死の行進」は、延々と続く。
どんな深刻な状況でも悪ふざけがやめられないのが、またわが下位クラスの特徴だった。
極卒センセーが離れたのを機に、特にふざけたメンバーの一人が、こっそり周りにだけ聴こえる小声で歌を口ずさみ始めた。
♪なななーなーななななー
なななーなーななななー……
劇場版「さよなら銀河鉄道999」のレジスタンスの歌である。
世代的に子供の頃みんな件のアニメを観ていたので、何のネタかすぐにわかり、またシチュエーションが妙にハマっていたので、半径1メートルの範囲の生徒は笑いの発作に苦しめられた。
(ちょっと! やめろや!)
(笑ろてもたらまたシバかれるやろ!)
(マジでヤバいって!)
周りの数人のメンバーの心の叫びをよそに、そいつの歌は止まらない。
あきらめた周囲の数人は、これも小声でレジスタンスの歌を唱和しはじめた。
笑いの発作を抑えるためには、「やる方」に回るのがベストなのだ。
こうして最初に歌い始めたアホを中心に、笑いの発作と小声の歌が、地味にひっそりと隊列に波及していった。
♪なななーなーななななー
なななーなーななななー……
♪なななーなーななななー
なななーなーななななー……
♪なななーなーななななー
なななーなーななななー……
するとどうだろう、あれだけバラバラだった隊列が「レジスタンスの歌」で結ばれて、それなりに揃ってしまったのだ!
仁王立ちの極卒センセーが立つ朝礼台までその「奇跡」はなんとか持続し、そしてふざけた歌を口ずさんでいたこともバレずに済んだ。
こうして私たちは、小一時間ほどの居残りで「死の行進」から放免されたのだった。
(今ちょっと動画サイトで確認してみると歌詞は「な」ではなく「ら」が正解のようだ。しかし子供には男声低音が「な」ぽく聞こえたらしく、うちのクラスはみんな疑問なく「な」で歌っていた。興味のある人は「さよなら 999 レジスタンス」などで検索)
あれからはるかに時は流れ、「地獄の東京五輪」へのカウントダウンが始まった猛暑に喘いでいると、「死の行進」をさせられていた時の気分とシンクロしてくる。
理不尽で時代錯誤のしごきに、要領よく迎合・追認するのではなく、まともに反抗して玉砕するのでもなく、いつもの悪ふざけで凌いだことを、なんとなく反芻している。
意外にあれは、「一つの正解」だったのかもしれない。
2018年07月17日
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