子供は「戦争ごっこ」が大好きだ。
広い意味で「闘争」の要素が含まれる遊び全般というほどの意味にしておくと、男の子的な遊びの大半は「戦争ごっこ」になるだろう。
サブカルチャーの分野でも、「男の子向け」はバトルもので占められているが、子供の素朴な欲求に合わせきることが求められる分野である以上、これは仕方のないことだろう。
テレビ番組やマンガ、ゲームなどのサブカルチャーは、「心の駄菓子」だ。
駄菓子ばかりではいけないが、子供がこの修羅の巷である娑婆世界を強く生き抜くためには、大人の推奨しがちな「清潔なもの、優良なもの」ばかりでもいけない。
多少の「俗悪」は必要なのだ。
戦後の60年代には第二次大戦をモチーフにした戦争モノの少年マンガが流行した時期もあったが、戦中の戦意高揚プロパガンダそのものではなく、それなりに戦争の悲惨さを伝えるものではあった。
70年代に入るまでには「戦争」そのものを扱わなくとも、SFやスポーツでフィクションとして「たたかい」を表現するノウハウとビジネスが確立され、人気を博すようになった。
子供を持つ親は男の子向けサブカルのバトルシーンの多さ激しさにほとほと呆れ、眉をひそめることもあるだろうけれども、日本のサブカルチャーのビッグネームの中には、筋金入りのミリタリーマニアがけっこう多く存在する。
アニメの世界では、たとえばジブリの宮崎駿やガンダムの富野由悠季がそうであるが、彼らはかなり古典的な反戦主義者でもある。
戦争ごっこと反戦平和は、クリエイターの中でも子供の中でも、共存し得るのだ。
わがニッポンの子供向けサブカルチャーの作り手は、玩具メーカーの先兵という一面を持ちながらも、同時に子供たちの心に夢と希望の種を植える理想主義も捨てきらない所がある。
これは戦後の子供向けサブカルの始祖である手塚治虫から、脈々と受け継がれる作り手の良心である。
一定の批判とともに、一定の信頼を置いても良いと考えている。
必ずしも男の子に限らないが、標準装備されているかに見える「闘争心」が、果たして動物的本能によるものなのか、または性差の文化・教育の中で刷り込まれたものなのかは一旦棚に上げるとして、現状それは確かに存在する。
自分の中の闘争心や攻撃性は「無いものとして抑圧する」のはかえって危険なので、どうしようもなく在るものとしてまずは認め、それを飼いならさなければならない。
闘争心を暴発させるのではなく、友人関係が破綻しない範囲での制御は、主に遊び、「戦争ごっこ」の中で培われる。
遊びの際のモラルの在り方を示すのが、男の子向けサブカルチャーの役割なのだ。
戦いは、なるべく避けるべきである。
戦いは、誰かを守るためのものである。
戦いにおいても、恥ずべき振る舞いはある。
そして戦いは、最終的には平和を守るためのものである。
以上のような基本パターンを身につけるには、物語の中で繰り返し味わい、遊びの中で体験するのが一番だ。
私から見ればやや潔癖に過ぎる昨今の風潮の中では、公教育で「喧嘩をするな」と教えることはできても、「喧嘩のやり方」を教えるのは不可能だ。
清く正しい建前から外れた領域は、保護者がサブカルチャーもうまく活用しながら教えていく他ない。
とは言え、バトルもののサブカルチャーが、子供の心のモラル育成において万能であるというわけではもちろんない。
テレビを見ていればOK、マンガを読んでいればOK、ゲームをやっていればOKなどという、単純な話ではない。
バトルのパターンを浴びるほど体験することで攻撃性が助長されることもある。
とくにゲームなどで「人の姿に見えるキャラクター」を、反射神経で殴打したり銃撃しまくるような表現をとるものには注意が必要だ。
人は闘争心や攻撃性を持っているが、同時に人の姿を持つものにたいして攻撃を抑制する心の働きも持っている。
リアルな表現で人間的なキャラを攻撃対象とするゲームは、そうした抑制機能を解除してしまうケースがあるのだ。
戦いをシミュレートしたいなら、武道や格闘技などで、生身の人間を相手に、自分でも実際に痛みを味わいながら体験する方が、より望ましい。
戦争ごっこも、バトルもののサブカルチャーも、武道や格闘技も、子供の攻撃性を馴致するのに、決して万能ではない。
戦争や軍隊、特攻精神を、現実を無視して美化してしまう弊害はある。
悪く作用すれば粗暴者やいじめ、ハラスメント体質を量産してしまう危険はもちろんある。
単純に禁止するのではなく、放置するのでもなく、注意深く見守ってあげてほしい。
そして可能であれば「ワクチン」として、美化されない戦争の悲惨な現実を描いた「はだしのゲン」や、水木しげるの南方戦記物なども合わせて鑑賞できるよう、環境を整えてみるのが良いのではないかと思う。
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