それにむけて何か良い本がないかと、時間を見つけては書店でさまよい、あれこれ手にとった。
書店での本探しは、結果として買う本が見つからなくとも「クリエイト」で、結局獲物無しでも「良い時間過ごしたな」と思えたものだ。
サン・テグジュペリ『星の王子さま』を読んだこともあった。
2020年代に入り、コロナ禍とともに世界中でファシズムが話題にのぼり始めたちょうどその頃、例の「バオバブ」のくだりを読んだ。
放置するとたちまち巨大化して小さな星を破壊する悪い植物の種。
決して楽しい作業ではないが、悪い芽を日々丹念に摘み続けることの大切さ。
読みながら、慄然とせざるを得ない気がした。
自国中心や人種差別、優生思想は、その「わかりやすさ」故に、容易く人の心を扇動し、腐らせ、社会を破壊する。
では「悪い芽を摘む」ことに相当するのが何かと言えば、子どもたちや若者に「教養」を伝え続けることしかないだろう。
基本的な日本語の読解を身に付け、人権を知り、歴史修正や似非科学、優生思想に引っかからないで欲しいということで、子どもらだけでなく、私もぼちぼち読書を続けている。
倦まずたゆまず教養を積み続け、悪い芽を摘み続けるのだ。

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●『人類の長い旅―ビッグ・バンからあなたまで』キム・マーシャル 著、藤田千枝 訳(さ・え・ら書房)
本書は83年刊なので内容的には古い面もあるが、翻訳の日本語が素晴らしく、シンプルなタッチの挿絵が親しみやすい。
小中学生にも読める「進化」「宇宙史」「生命史」テーマの本としてはいまだに価値が高く、図書館に所蔵されていることも多いはずだ。
ビッグ・バンから各種原子が生成し、宇宙が展開し、銀河の中のほんの一点の太陽系、その中の極小パーツ地球、そしてそのほんの表面部分での生命進化が、平易にドラマチックに語られる。
章が進んで人類史の範囲に入ると、解説は加速的に詳細になる。
今読むと、人種差別や優生思想に繋がらないよう、細心の注意が払ってあるのがよくわかる。
とくに「進化」というテーマを扱う場合、それを科学的に間違った認識で悪用すると、容易く差別や選民になってしまうのだ。
著者、訳者の確かな良識が感じられる。

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●『ともに学ぶ 人間の歴史』(学び舎)
中学社会歴史的分野で、有名進学校も使用する文部科学省検定済教科書として、一時話題になった。
受験向けに高度な内容まで詰め込んであるのかと思いきや、内容はむしろ厳選してあり、記述は簡潔。
科目に合わせて編集してあるが、「世界史の中の極東アジア列島」という構図が理解できるよう、内外を往還しながら平易に語ってある。
巻頭近くに載っている時代区分図から北海道と沖縄が別立てになっており、「日本=大和」「日本は単一民族」という見方をサクッと相対化してあるのがもう既に素晴らしい。
国内では早い段階から「民衆史」の解説があり、「少数の有名人物が切り開く歴史」という、ありがちな誤解に陥らないよう配慮してあるように感じる。
そして私たちの世代の学校教育では流されがちだった「近代化以降」に全体のページ数の半分程度が割かれており、現代に歴史を学ぶ意味はまさにここにあることが明確になっている。
大人が読んでも知的好奇心を刺激される通史である。

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●『10歳から読める・わかる いちばんやさしい日本国憲法』
日本国憲法は読んでみるとさほど難解ではなく、分量も多くない。
憲法は社会を構成する基本中の基本なので、社会科学習の際にまず最初にあたっておくと、すっきり一本筋が通り、理解しやすくなる。
私自身は小六の頃、写真や脚注がたくさん入った『日本国憲法』を読み、内容をノートに絵解きしたりしていた記憶がある。
うちの子どもら(当時小中学生)と読むためにあれこれ検討した結果、原文と対照して平易に図解してあるこちらの一冊にした。
前書きから「憲法は国家権力を縛るもの」という大前提が示されており、筋が良い。
解説では明治憲法との比較がよく出てくるのだが、子どもらは先に『はだしのゲン』を読み込んでいるので、「基本的人権が守られない戦前の世の中」のイメージがしやすい模様。
改めて思うが、公教育で扱うべきは「道徳」ではなく「基本的人権」であり、『日本国憲法』は近代人権思想の一つの精華なのだ。