今年のNHK大河『光る君へ』は紫式部が主人公。
もう一方の主人公・藤原道長の生涯を描く政治劇であると同時に、清少納言も登場して文学の在り方を問うドラマになっている。
作中でも重要テーマとして出てくる『枕草子』『源氏物語』は、中高生の頃読んだ赤塚不二夫の描いたマンガ古典シリーズのものが記憶に残っている。(同じ頃、与謝野晶子訳の『源氏物語』を通読したはずだが、残念ながらほとんど覚えていない)
良い機会なのでともにビギナーズ・クラシックスで再読してみた。
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●『枕草子』(角川ソフィア文庫ビギナーズクラシックス)
日本古典の一冊目には、やはり『枕草子』を推したい。
一段ごとの完成度が高く、読みきりになっているので手にとりやすい。
いまさら言うまでもないが文才は凄まじく、時代とともにありがちな随筆というジャンルで、千年経った今でも言葉の端々が尖って見えるのは驚異だ。
才能・センスとは、「そこにある面白さを見つけ、的確に言語化すること」で、そこの凄みは古びないということなのだろう。
背景情報が解説で補完されており、きらびやかな本文が、実は哀しみに裏打ちされていると知ることで、一層味わいは深くなる。
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●『源氏物語』(角川ソフィア文庫ビギナーズ・クラシックス)
全編ではなく抜粋だが、それでも500ページ超。
有名エピソードはほぼ網羅されており、要所をおさえた詳しい解説付きで原文を音読できるのが、すごく良い。
久々に読み返してみると、意外に「政治」の要素が強いと思った。
主に描かれているのはもちろん「恋愛」だが、その裏には常に政治が貼りついているのだ。
今年の大河ドラマは、『源氏物語』の「男女の恋情を通して見た政治劇」という要素を、よく再現している感じはする。
そして政治闘争や恋愛を続ける面々の、なんと教養に溢れていることか。
貴族は中世日本の官僚で、先例の学習と文書作成のエキスパートであるからこそ、そのサロンの中で「文学」が吹きこぼれてくるのだろう。
今読み返すと、三十過ぎた光源氏はだんだん妖怪じみて見えてくる。
源氏死後は、大きくなりすぎた源氏の業の容量を遠心分離して二つに分けたような、薫と匂宮の物語が紡がれる。
このあたりも物語の型として非常に興味深く、紫式部の抱えた「書くしかない心の鬼」も仄見えてくる気がする。
ラストはどこまでも燃え残る業からの解脱のイメージであろうか。
全くタイプの違う書き手が同時代に対峙し、両方の作品が千年経っても残り、いまだに毒を放っているのはなんという奇跡であろうか。
日本古典の入り口と言えばもう一つ、『百人一首』がある。
角川ソフィア文庫ビギナーズ・クラシックスにも収録されているのだが、ここではカラー図版の豊富な学習参考書から一冊ご紹介。
このカテゴリでは度々学参を紹介している。
評価の荒波に揉まれるこのジャンルで版を重ねている本は、質が高く、そのわりに価格も安いものが多いのだ。
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●『原色 小倉百人一首』(文英堂)
オールカラーで一首ごとに関連する風景、動植物等を紹介してあり、色彩豊かに和歌の世界をイメージできる。
音読むけに読み仮名がふってあり、作者、内容、語句や文法の解説も行き届いている。
入門にも最適だし、そこから読み込んでいくのにも十分耐える内容だ。
2024年10月22日
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