世界史の大まかな流れを一冊で読める入門書というのは、なかなか良い本が見当たらない。
全般に学ぼうとすると内容が薄まり、結局わかったようなわからないような気分のままで、受験対策にしようとすると丸暗記しなければならなくなる。
そんな時は何かワンテーマ、決まった切り口から歴史を眺めると、見える風景が違ってくる。
長男が高校に入って、社会科で最初に学習する「歴史総合」という科目を知った。
私が中高の頃の社会科は、地理をやった後に歴史、公民に進む順番だった。
歴史は「日本史」「世界史」にはじめから分けられ、公民分野も切り離されていた。
今の高校生は「歴史総合」で日本と世界の近代化を中心に学んでから、地理や歴史、公民分野の、それぞれより深めた内容に進む順番になっている。
相互に影響しあい、一続きになった今の世界情勢は「近代化」の産物であり、各国の社会の仕組みも全てそれがベースになっている。
そこをしっかり押さえた後、各分野の学習に進んでいくので、昔より断然合理的だ。
近代化というテーマは現代文でもよく出題されるし、東西の文明比較なんかにも内容的に直結する。
自分が高校の頃の経験では、一応美術系受験ということで美術史とか文化史を独自に勉強して、結果として歴史全般や現代文の評論対策もなったことを思い出す。
フランス革命と産業革命のインパクトは、通史で習っている内はいまいちピンと来ていなかったのだが、美術史経由でようやく理解できてきた。
美術というのは社会に対するリアクションなので、美術の様式の変化を探ると、そのまま社会の変化を理解することになる。
最近手に取った「美術を通して観た歴史解説」の中では、以下の本が非常に良かった。
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●『西洋絵画の見方がわかる世界史入門』福村国春(ベレ出版)
分類としてはビジネス書になるだろうか。
主にルネサンス以降から近代、現代までの美術史の流れを、「概説」ではなく一続きの「物語」として描いてある。
美術史と世界史は不可分であることがよくわかる一冊。
高校生ぐらいなら十分読めるし、「歴史総合」の副読本にも良さそうだ。
もう一冊挙げるなら、岡本太郎の定番。
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●『今日の芸術』岡本太郎(光文社文庫)
1954年に初版が刊行され、芸術を志す者に広く読み継がれてきた一冊。
表題『今日の芸術』は、1950年代における「今日」を意味しておらず、芸術がその時代それぞれの「今日性」を持つための条件を、きわめて平易な文章で語りつくしている。
出版社の意向で「中学生でも理解できるように」徹底的に言葉を噛み砕いているため、読んでいてテンションの高い講演会を聴いている様な、流暢な香具師の口上に聞き惚れるようなライブ感がある。
「今日の芸術は、
うまくあってはならない、
きれいであってはならない、
ここちよくあってはならない」
こうした刺激的なコピーで読む者は首根っこを捕まえられ、理路整然と説得され、勢いに巻き込まれて一気に通読させられ、いつの間にか意識は転換させられてしまう。
個人的には「芸術」と「芸事」の相違の解説の部分が、この本の白眉だと感じた。
たゆまぬ修練によって身につけた技能が、実は芸術の本質からはずれた価値であるかもしれない。
恐ろしくもあり、勇気づけられもする指摘だ。
美術史であり、文明論であり、中途半端にしか達成されていない日本の近代化を、刊行後七十年経った今なお抉り出す一冊でもある。
強烈な断定は好みが分かれるだろうけれども、一読の価値あり。
2024年10月29日
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