夜摩天は閻魔(えんま)と同意で、インドの古い神話における最初の人間、ヤマを起源に持つ。最初の人間=最初の死者なので、ヤマは死の国の王になった。ヤマは仏教に読み替えられて夜摩天となり、須弥山上空で衆生の生死を支配するようになったらしい。
仏教では天界の神々も不死ではなく、人間よりはるかにおおきな能力と寿命を持っているが、欲望からは離れておらず、いずれ死に行く者であるとされている。
夜摩天が神々の王・帝釈天の宮殿の、更に上空に住まいしているのはその構図を表現しているのかもしれない。

夜摩天の図像にはいくつかの種類があるが、水牛にまたがり、三日月の上に人頭を掲げている姿で表現されることが多く、閻魔大王とも同体であるいう。
閻魔大王は地獄の支配者で、地獄は金輪上の贍部洲の地下にあるとされている。つまり、衆生の輪廻する六道の世界は、地下と須弥山上空で同じ支配者に挟まれて管轄されていることになる。
チベットで広く見られる六道輪廻図は、その支配の構図をもっとはっきりと表現してあるので、概容を紹介してみよう。

巨大な夜摩天が抱え込む時間の輪の中に六道の世界が展開され、最下部には地獄、最上部には天界が配置されている。天界の部分には須弥山が描かれ、地獄の上部、時間の輪の中心のやや下部には閻魔大王が描かれている。
時間と生死、欲望に縛られた六道の世界を、巧みに視覚化した図像だ。