そのうち記憶の底7では、私が幼児の頃に感じていた「枕に耳をつけて横向きに眠ることへの奇妙な恐怖」について書いた。
最近それに関連して、思い出したことがあるのでメモしておく。
幼児期を過ぎ、少年期に入った私は「横向きで眠る恐怖」を徐々に忘れ、今度は奇妙な空想で入眠するようになった。
夜になって蛍光灯を消し、布団に入り、目を閉じる。
そこから毎晩のようにある空想がはじまる。
掛け布団と敷布団の間に自分の体が横たわっている。体で出来た布団の隙間は、頭部から足元へとまるで深い洞窟のように続いている。
枕元に立った「小さな自分」が、自分の頭部をすり抜けて「布団の洞窟」へと分け入る。「小さな自分」は、一歩、また一歩と洞窟の中を進んでいく。
奥へ入り込んで行くにつれ、「横たわる自分」は眠りに落ちていき、遂には夢の世界へ入り込んでいく……

迷い込んだ「小さな自分」が、その先がどうなってしまうのか、いつも見届けることが出来ないままに、私は眠りに落ちていた。だからだろうか「洞窟」や「トンネル」のイメージは、私の心の奥底ではいつも怖さと憧れが入り混じった特殊なものだった。
大人になった現在の私が、やや閉所恐怖症気味ながら、各地の「胎内潜り」(※)に心惹かれてさまよってしまうのは、どうやらこのような奇妙な記憶のせいなのかもしれない。
(※)「縁日草子」では以前友ヶ島見聞録で、「胎内潜り」を紹介したことがある。