ここ一年ほど「川内康範」という名を聞けば、主にワイドショーなどで森進一と「おふくろさん」の歌詞でもめていた人、というイメージが強いだろう。
作詞家として「骨まで愛して」等のヒット曲も手がけているが、私にとっての川内康範さんは、やはり「まんが日本昔ばなし」の作者であり、「レインボーマン」の作者であった。
記憶に残る番組作りに長けた先生で、あの懐かしい名曲「ぼうや よいこだ ねんなしな……」は、今でも耳にするだけで暖かい気分に浸れるし、「インドの山奥で〜」ではじまる「レインボーマン」の主題歌も鮮烈だった。
私が幼い頃にTVヒーロー「レインボーマン」を視聴したのは、本放送ではなく、なんどか繰り返された夕方の再放送だったはずだ。
主題歌は「インドの山奥で 修行をして」の後、このように続く
ダイバダッタの魂宿し
空にかけたる虹の夢……
子供の頃は何の気なしに歌っていたが、ある程度の年齢になって多少仏教の知識が入ってくると、私の頭には「?」が浮かんだ。
ダイバダッタ?
ダイバダッタって、あのダイバダッタ?
ダイバダッタと言えば、一般に釈尊の弟子の一人で、破門にされた言わば「悪役」とされている。なぜ主人公はわざわざ悪役に弟子入りしたのだろうか?
調べてみると、どうやら釈尊の破門を受けたダイバダッタが、二千年以上にわたる贖罪の修行を積んで、戦争を終らせるための超能力を得たという裏設定があったようだ。
レインボーマンと戦うのは、その名も高き「死ね死ね団」。
第二次大戦中、日本軍に酷い目にあった外国人が、日本人を滅ぼすために結成した秘密結社であると設定されている。
まず、設定が素晴らしすぎるのだ。
川内康範さんと言えば、政治的にも右派のご意見番として名高く、つい最近も薬害肝炎問題で福田首相と直談判におよび、解決を促したエピソードで知られる。
単なる「右翼」の一言で済ませるにはあまりに懐の深い人物であったことは、数々の作品を見れば一目瞭然だ。
川内康範さんの実家はお寺で、幼少の頃から仏教には親しんできたと言う。幾多の作品の端々に、そうした匂いは表れている。
代表作「月光仮面」は、薬師三尊の脇仏・月光菩薩に由来するそうだ。「月光仮面」のあまりに有名な主題歌には「正義の味方」という言葉が出てくるが、これも氏の造語。
この世に完全なる「正義」は神仏以外にあり得ない。
月光仮面はあくまで人間なのだから、絶対的な正義ではなく「正義の味方」に過ぎない。どこまでも「脇役」でしかない。
これが氏の「月光仮面」に対する位置づけだったと言う。
日本におけるヒーローの元祖である「月光仮面」の番組のキャッチコピーは、あまりに平和的なものだった。
「憎むな! 殺すな! 赦しましょう!」
合掌
川内康範さんについては、以下の本にディープなインタビューが掲載されている。
●「篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝」竹熊健太郎 (河出文庫)
正義そのものではなくて、正義の味方という態度、確かに、素晴らしいですね。いわれるまで気になりませんでしたが、確かに仰るとおりです。
コメントありがとうございます。
「正義の味方」という言葉は月光仮面と言う作品から広まりすぎてしまって、印象が「ふつう」になってしまった感がありますね。
私も今回、川内康範さんのことを調べてみて、はじめてその本来の意味を知りました。
「憎むな! 殺すな! 赦しましょう!」
という言葉も、苛烈な切った貼ったの人生を潜り抜けてきて、神仏に思い至った人物だからこその重みと味わいがあります。
ブログ「縁日草子」の一層の充実を、一読者として、何よりうれしく感じます。
川内康範さんのことは今回私もネットでいろいろ調べました。またYouTubeで「月光仮面」のTV映像も見ることができました。
お描きになったが月光仮面が懐かしく、またあまりに素晴らしくて、久しぶりに、思わず書き込ませていただきました。
たくさんの素的な絵と文章を、いつもありがとうございます。
もう、桜の季節も、過ぎていきましたね。
久しぶりに、ご挨拶まで。
私も川内康範さんについて遅ればせながら調べてみて、知らず知らずのうちに自分が影響を受けてきた人のことを再認識しました。
「篦棒な人々」の著者である竹熊健太郎さんのブログにもいくつか記事がありました。孤独な性向を持つ川内さんが、聞き上手なインタビュアーを得て徐々に心を開いていく様が、ある種感動的でもありました。
この「縁日」を冠したブログを綴っている間にも、私が敬意を抱いてきた方々が、一人また一人と亡くなられて行きます。折にふれてそうした方々のことを記事にしているうちに、
「ああ、そう言えば神社仏閣の縁日も、誰かが亡くなったことにちなんだものが多かったな」
と思い当たりました。