本土人による沖縄論、沖縄人自身による沖縄論に続いて、沖縄に飛び込み、移住して音楽活動を行った、とあるミュージシャンがテーマの本を紹介しよう。
●「竜宮歳事記 どんとの愛した沖縄」小嶋さちほ (角川文庫)
「どんと」というミュージシャンをご存知だろうか?
80年代から90年代前半にかけて、ローザ・ルクセンブルグとボ・ガンボスの続けて二つのバンドでボーカルをつとめて活躍し、95年からは沖縄に移住してソロ活動、2000年に急逝した個性的なアーティストだ。
この本はどんとのパートナーで、自身もZELDAのリーダー&べーシストであった小嶋さちほが、どんとの没後一年あまりで発行した本の文庫化で、巻末には新たに町田康との対談も収録されている。
よく「沖縄は竜宮城だよ」と語ったというどんとが、より純化された歌の世界を求めて沖縄に移住し、沖縄の様々な場所、文化、数々のミュージシャン達と交流していく時期が、間接的にではあるけれども記録されている。
沖縄音楽といえば、とかく三線の民謡だけがクローズアップされがちだが、この本には民謡だけでは無い、沖縄大衆芸能の眩暈のするような世界が紹介されている。
音の坩堝のような島に飛び込んだ本土人、どんとと小嶋さちほが何を見、何を感じたのか、そこには男女の感覚の違いもあったようだ。
巻末の対談では小嶋さちほのこんな言葉がある。
そういう意味でいうと、楽しく暮らしてはいましたが、沖縄での生活はすべてが、どんとにとって楽なところではなかったと思います。まぁ、こちらに移住してきた人が二年目ぐらいでだれもがぶつかる壁でもあるのですが、沖縄の生活にどんどん入っていくと、やはり、そこから先は、近づけない血縁の世界とかになって……。いろいろな壁があるようです。どんとは一時期、「ものすごく孤独を感じる、外国の敵地の中に一人でいるようだ」と言っていました。「これはオスだけが感じる感覚だ」とも。私は女だし、すっかり同化しちゃってて「なにが?」って感じだったけど。
一読、「やはりそういうこともあるか」と思った。
夢を描いて現場に立てば、真摯であればあるほどそういう感覚が生じることもあるだろう。
もちろん苦しさばかりではなかっただろう。
どんとの吸収したオキナワは、彼のソロ「沖縄三部作」の中に見事に結実し、今も多くの人に歌い継がれている。
【追記】
2010年、カテゴリどんと新設。
どんとについてより詳しい記事はそちらへ。