blogtitle001.jpg

2006年04月29日

神様仏様を描くと言うこと

ac-01.jpg

 基本的には、神や霊に姿は無い。
 私には霊能の類も無いので、見えないものを見ることは出来ない。たまに「夢のお告げ」で特殊な風景やキャラクターを見ることはあるけれども、夢に見たことはそのまま絵に描いたり言葉に置き換えることは難しい。
 面白い夢を見れば「夢日記」として記録に残すこともあるが、本来絵や言葉に残せないものを無理矢理描いているもどかしさがある。

 見えない霊を絵にすることの大先達・水木しげる御大が、膨大な資料を集めて調べ尽くしたあと、それらを自在に引用・再構成することで絵作りをしていることは、よく知られている。
 民衆の間に広く受け入れられた図像を引用する、長い時代をかけて積み上げられた文化的な約束事を下敷きにすることで、説得力が生まれるのだ。

 先達に倣い、私も資料は出来る限り集め、調べる。図像資料を蒐集するのはもちろん、古典や研究書をあれこれとひもといてみる。調べれば調べるほど、資料間の矛盾は広がるし、どのように描いていいか分からなくなることもある。
 考えてみれば、様々な資料の間に矛盾があるのは当たり前のことだ。時代や土地柄によってばらばらに練り上げられた、個々の図像だけが実体であって、神仏の姿に「正解」「真の実体」など無いからだ。

 それでも集めた資料を元に、模写してみたり姿の意味を研究してみたりすると、その神仏が「何故そのように描かれたか」が、おぼろげながらわかってくることがある。
 「何故そのように描かれたか」の「描かれたか」という人為の部分と、そういう人為の元に描かれた図像を、人が見たときに感じる神仏の雰囲気の間の関係に、なんとも言い難いフシギが立ち上ってくる。
posted by 九郎 at 11:20| 神仏絵図覚書 | 更新情報をチェックする

2006年05月11日

神仏絵図常用資料1

 私は特定の宗教団体に所属していない。信仰を持っている友人は何人かいるし、なにがしかの行事に参加することもあるが、基本は無所属・独学を通している。
 絵についても同様で、仏画についての専門に学んだことはなく、自分で資料を探して好き勝手に描いている。ただ、先人の残した図像には貴重な知恵がたくさん詰まっているので、出来る限り調べた上で、好き勝手に描く。

 そんな私が普段から一番参考にしているのが、この一冊。



●「曼荼羅図典」染川英輔 著
 仏画や曼荼羅は、鑑賞する分には実物やカラー図版がいいのだが、いざ自分で描こうとしてみると、白描画(輪郭線を毛筆で描いたもの)が、どうしても必要になってくる。神仏に限らず動植物についても、絵の資料には写真よりも線画の方がありがたい局面が多々ある。カラー図版は、ものの雰囲気を掴むには良いのだが、細部を理解するには白描画が一番なのだ。
 この「曼荼羅図典」には、金剛・胎蔵両部曼荼羅の膨大な仏尊の全てが精密な白描画で紹介されており、文章による解説部分も素晴らしく詳細だ。
 両部曼荼羅には主な仏尊がほとんど網羅されているので、事実上の仏教百科事典であるとも言える。やや高価な書籍だが、図書館にもよく入っているし、断片的な資料を一つ一つ拾い集めていくよりも、包括的で内容の確かなものを一冊持っていると非常に便利だ。

 私もいつの日にか両部曼荼羅を自分なりに描いてみたいと思っているので、実際に描き上げ、その上貴重な資料の全てを公開してくださった大先達には心の底から敬意を表し、ここに紹介するのである。
posted by 九郎 at 22:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 神仏絵図覚書 | 更新情報をチェックする

2006年05月12日

神仏絵図常用資料2

 前回の記事で、絵を描く者にとっての「白描画」の重要性を述べた。
 続けて白描画の参考資料を紹介してみよう。



●「図解・別尊曼荼羅―密教図像を読む」小峰弥彦, 高橋尚夫 著
 曼荼羅といえば、一般には真言密教の金剛・胎蔵両界曼荼羅が有名で、前回の「曼荼羅図典」もその二大曼荼羅を描くための資料だ。
 曼荼羅には他にも「用途別」に様々な種類があって、この「図解・別尊曼荼羅」には日本に伝えられてきた両界以外の曼荼羅が収録されている。図版は鮮明な白描画で、描かれたそれぞれの仏尊名も明記、元になった経典の記述も豊富に引用されており、出典も明確。
 痒いところに手が届くような編集は、絵描きにとって本当にありがたい。

 この本が発行されて書店に並んだ時、到底売れそうもないマニアックな内容にも関わらず、比較的安い定価がついていることに驚愕し、即買いしたことを覚えている。すぐに書店の本棚から消えてしまうかと思いきや、意外に生き延び、今も並び続けている。
 絵描きばかりでなく、鑑賞者や研究者にとっても貴重な資料になっているのだろう。
posted by 九郎 at 22:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 神仏絵図覚書 | 更新情報をチェックする

2006年05月13日

神仏絵図常用資料3



●「図説仏像集成―図像抄による」大法輪編集部
 白描画の資料としては前々回の「曼荼羅図典」が最強なのだが、なにぶん大型本で価格も高く、誰にでも手が出せるというものではない。そこで一般に知られた仏尊のみをまとめてあるのがこの一冊。
 実は前出の「曼荼羅図典」には、一般には親しまれているものの、経典に準じていない神仏の姿形は収録されていなかったりする。あくまで大曼荼羅を描くための資料なので仕方がない面もあるが、意外に有名な図像が抜けていたりするのだ。
 この「図説仏像集成」はその穴を補完するのに大変便利し、曼荼羅に踏み込まず、単独の仏画を志すならば、まずはこの一冊だけで十分事足りる。文字による解説も詳細で、出典も明記してある。仏尊の姿形にはそれぞれ意味があるので、きっちりそれを解説してあるのはありがたい。

●「仏像さしえ集―複写・転載自由自在」国書刊行会
 こちらは仏尊・神々・祖師・仏具等の、伝統的に使用されてきた図像のみをただひたすら集積した一冊。文字による解説は一切ないものの、名前は明記してあるので他の資料にあたれば問題無い。
 図像はやや鮮明さに欠けるものの、とにかく収録されている種類が豊富で、眺めているだけで様々な発見をしたり、インスピレーションが湧いてきたりする。他の資料に載っていないマイナーな神仏の図像が収録されているので、使える一冊だ。続きを読む
posted by 九郎 at 11:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 神仏絵図覚書 | 更新情報をチェックする

神仏絵図常用資料4

 神仏絵図常用資料1〜3では、主に仏教における「キャラクター」である仏尊の白描画資料について紹介してきた。
 今回は仏教の「背景」にあたる宇宙観についての参考資料を紹介。



●「須弥山と極楽―仏教の宇宙観」定方 晟(講談社現代新書)
 仏教の宇宙観は、現代科学の宇宙観とは全く違っている。当ブログの「仏教への読み替え1 須弥山宇宙」でも軽く紹介したけれども、一見荒唐無稽な宇宙の捉え方だ。しかし、こうした宇宙観は「実証」は基にしていないけれども、考案された当時の最新の知識や論理の積み重ねから組み立てられたものであって、人間の精神の構造と読み替えれば、今なお価値を保っていると思う。
 この本では、須弥山・地獄・極楽など、仏教の宇宙観についてそれぞれの構造・位置・大きさを、数々の図版とともにわかりやすく解説してある。
 価格が安く、入手もきわめて容易なのでお勧めの一冊。 
posted by 九郎 at 11:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 神仏絵図覚書 | 更新情報をチェックする