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2006年05月22日

「東寺密教図像の世界」展

 数日前、京都の東寺(教王護国寺)宝物館で開催中の、「東寺密教図像の世界」展に行ってきた。(五月二十五日まで開催)
 東寺は高野山とともに真言密教を代表するお寺。「密教テーマパーク」とも言うべき仏像や建築物の数々が楽しめる上、宝物館では過去にも様々な興味深い展示が催されてきた。今回は貴重な密教白描図像が生で見られる展示で、独学の神仏絵描きには数少ないチャンスだ。
 出来る限り入場者数の少なそうな時間帯を選んで足を運ぶ。私が足を運んだのは雨天の朝一、狙い通りわずか数人の入場者だった。ガラス越しとは言え、素晴らしい資料の数々を、思うがままの独り占めで観察、心行くまで堪能する。展示点数こそ少なかったが、いずれ劣らぬ超一級の名品ばかり。
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posted by 九郎 at 19:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 神仏絵図覚書 | 更新情報をチェックする

2006年05月31日

神仏絵図と著作権

 ここ数日、さる著名画家の盗作疑惑の報道が相次いでいる。
 ニュースで当の画家の作品と、元になったとされる海外画家の作品の比較が数例ほど行われていた。
 絵描きのはしくれの目から見ても、このケースは「真っ黒」だ。おまけに報道によれば、盗作疑惑画家は海外画家のアトリエに訪れ、熱心に作品の写真を撮り、疑惑発覚後は海外画家に「訴えないでほしい」と申し込んだとか。
 疑惑画家がNHKに寄せたコメントでは、ピカソを引き合いにだして自己弁護をしていた。正直、恥ずかしい真似はいい加減にしてもらいたい。

 はしくれではあるが、私もネットで自作絵を公開している絵描きの一人。この際だから神仏絵図と著作権について考えてみよう。

 神仏絵、特に仏画では「写仏」と言って、お手本をそのまま写すことが一般的だ。お手本を「見て写す」どころか、お手本を下敷きにして「トレース」する。
 「写仏」でなくとも、出来る限り決まりごとに忠実に描くことがセオリーとされている。(だから私の神仏絵は、我流&邪道に分類されるだろう)
 仏様の容貌、衣服、持物にはそれぞれ意味がある。それは遥か昔から受け継がれてきたものなので、セオリーに則った仏像・仏画には意匠的な著作権の考え方は馴染みにくい。

 とは言え、現代の仏画絵師にも当然ながら著作権はある。作品を勝手に他人が使用したりすることは許されないし、作品にオリジナルな要素があれば、それは画家の権利として主張され得るだろう。

 現在の私の認識では、

・伝統的な神仏の姿や設定、古典的作品は、自由に引用することが出来る。
 (トレース可)
・現代の画家の作品は、そのオリジナルな要素はパクってはならない。
 (トレース不可)

 こんなところか。
 この問題については、今後も勉強して行きたいと思っている。
posted by 九郎 at 22:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 神仏絵図覚書 | 更新情報をチェックする

2006年06月13日

西村公朝の著作紹介

 私が最初に西村公朝さんを意識したのは「NHK趣味悠々」で「西村公朝の仏の造形」というシリーズの講師を勤めておられた時のことだった。
 聞き手に和泉淳子さん(能楽師で、狂言の和泉元彌の姉)と、日比野克彦さん(アーティスト)を迎えて、毎回親しみやすい形式で仏画や造形を指導。他にも仏の造形に関する様々な知識を、惜しみなく披露してくださる素晴らしい番組だった。
 とりわけ、木材それぞれの個性を生かした木彫の指導は本当に素晴らしかった。あらかじめ予定した形に無理矢理木を彫り込んで行くのではなく、実際にノミを入れてみて木と対話しながら、繰り返しこまめに下絵を描き直し、荒彫りと墨線、淡彩色で仕上げていくスタイルは、まさに目からうろこ。
 誰にでも可愛らしい仏像が作れてしまうノウハウは、円空や木喰のスタイルにも比肩し得る発明ではないかと思った。

 私の母方の祖父は、大工で仏像彫刻が好きだった。幼い私は祖父の作品制作の様子を、横に座って眺めるのが好きだった。祖父の死後、祖父手製の彫刻刀を私が引き継ぎ、何体か仏像彫刻の真似事もしてみた。大工の祖父とは違って、木材や刃物に素人の私には木彫は難しかったが、西村公朝スタイルを学ぶと、仏の造形は本当に楽しくなった。もしかしたら私は、亡き祖父と西村公朝さんを重ねて見ていたのかもしれない。
 その西村公朝さんも、平成15年に亡くなられた。
 私の手元にはたくさんの御著書がある。いずれも仏像造形や仏教の様々な知識について、飾らず、平易に語った名著ばかりだ。今後も私は繰り返しこれらの本を開くことになるだろう。

 数ある名著の中から二点、挙げておきたいと思う。

posted by 九郎 at 00:25| Comment(2) | TrackBack(0) | 神仏絵図覚書 | 更新情報をチェックする

2006年06月24日

ときに立ち止まる

 ブログ開設から約半年、これまでに様々な神仏について描き、カタってきた。昔の仏師のように「一刀三拝」とまでは行かないが、私なりの誠をもって取り組んできた。しょせん「神仏与太話・神仏萌え日記」とは言え、「真面目に遊んで」きたつもりだ。
 神仏を冒涜するような意図は全く無いが、それでも特殊な神仏を絵に描いてネットで公開する時には緊張感が走る。私は専門家ではないので、資料は全て市販の書籍等を参照している。だからそれを元に描いた絵を公開しても問題無いとは思うのだが、各宗派で秘仏扱いになっている神仏については「続きを読む」をクリックしないと表示されないように、一応配慮したりもする。

 昨日の記事で天狗のことを書いた。天狗は様々な能力を持つけれども、六道輪廻から外れた救われない存在。菩提心を忘れ、知識や力だけにおぼれた仏教僧が堕ち行く魔境…
 あぶないあぶない。
 菩提心と呼べるようなものがあるのかどうか分からない、ただただ神仏にまつわる面白い図像や物語を追い求める私のような者は、知らぬ間に天狗道へまっしぐらだったりして…

 私の家は浄土真宗で、真宗でよく読まれる「領解文(りょうげもん)」にはこんな一節がある。
 もろもろの雑行雑修自力のこころをふりすてて、一心に阿弥陀如来、われらが今度の一大事の後生、御たすけそうらえとたのみもうしてそうろう。たのむ一念のとき、往生一定御たすけ治定と存じ、このうえの称名は、御恩報謝と存じよろこびもうしそうろう。(以下略)
 
 色々知りたいとか、絵に描きたいとか、面白がりたいとか、面白がらせたいとか言う欲望は、考えてみれば「もろもろの雑行雑修自力のこころ」そのものではないかとも思えるわけで、どうやら私の後生はろくなものではなさそうだ(苦笑)

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posted by 九郎 at 22:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 神仏絵図覚書 | 更新情報をチェックする

2006年07月02日

インド神話参考図書

 インド神話は物語、図像ともに本当に面白い。
 仏教図像を描く時にも参考になることが多い。仏尊の服装を理解するにはやはりインドの図像が分かり易いし、密教図像はインドの雰囲気を濃厚に残している。特に天部の神々の発祥を知るには、インド神話は避けて通れない。
 と言うことで、この二冊。



●「インド神話―マハーバーラタの神々」上村勝彦著(ちくま学芸文庫)
 ネットは便利なもので、ちょっと知りたいと思ったことを検索すれば、数限りない情報がヒットする。知りたいことのアウトラインを知るには何の苦労も要らない時代になった。
 しかしネットの情報は玉石混交。ソースが明らかでない不確かなものも多い。「神仏与太話」を公言する当ブログなどは、不確かな情報の最たるものだ(笑)
 より確かな情報を得るためには、やはり書籍をひもとくのが一番。ある程度評価の定まった信頼感のある本には目を通しておきたい。
 インド神話というテーマなら、この「インド神話―マハーバーラタの神々」が参考になった。各神話の出典が明記してあり、白黒だが写真も豊富。文章も平易で、私のような素人にも大変分かりやすく、面白い。文庫本なので価格も安く、入手も容易。
 まったくいいことずくめの素晴らしい一冊。

●「インド神話入門」長谷川明著 (とんぼの本)
 インド神話と言えば、多くの人はインド雑貨店等で売られている派手な色彩のポストカードを思い浮かべるのではないだろうか?
 私はあのポストカードの雰囲気が大好きで、表現手法としても影響を受けている。伝統的な図像の約束事を踏まえつつ、写実やイラスト的表現をミックスして俗っぽさも敢えて辞さず。日本の泥絵の具で書いた看板絵にも通じるあのテイスト。(実は私は昔、アルバイトで映画館の看板描きをやっていたのだが、その話はまた後日…)
 この本には、誰もが思い浮かべるインド雑貨の神話絵がカラーで多数収録されており、主要な神々の図像的特徴を確認することが出来る。
 また、序にあたる「大衆宗教画の成立」では、現代インド雑貨の「あの絵柄」の源流となった一人のインド人画家が紹介されている。写実と立体表現を宗教画に導入し、印刷技術によって大衆に安価な神像を広めた創始者にあたる画家の物語で、非常に面白い。「あの絵柄」は、この一人の画家の切り開いた地平に、映画ポスターの通俗性をミックスした結果出来上がったものだと言う。


 当ブログ「縁日草子」で発表する自作絵は、だいたいポストカード大を意識して表示させている。実はそれは、愛すべきインドの大衆宗教画へのオマージュの意味もあったりするのだ。
posted by 九郎 at 00:30| Comment(2) | TrackBack(0) | 神仏絵図覚書 | 更新情報をチェックする