川べりを歩いている。
立派な川で、釣り人がたくさんいる。
久しぶりに釣ってみたくなり、上流へ向けてぶらぶら歩く。
橋を潜った所に古い生活雑貨店がある。
安いパンでも買って釣り餌にしようと店に入る。

薄暗い店内を見回すと、ビニール袋に入った食パンが並べてある。
一番安いのを買おうとするが、値札を見るとどれも異様に高く、八百円とか千二百円とか書いてある。
貧乏臭い生活雑貨店のくせに生意気な。
一番安いのでも六百円だった。
腹を立てながら手に取ってみると、ずっしり重い。
なるほど、中身が詰まっているので上等と言うわけか。
しかし、非常に不味そうである。
おれはますます生活雑貨店を見くびる。
仕方がないので六百円のパンを買う。
これが上等だとは納得していないという意思表示に、非常にいやいや店員に金を渡し、お釣りをもらう。
ともかく、これでやっと釣りができることに嬉しくなり、更に上流に向かう。
たしかいいポイントがあったはずなのだ。
前に一度来たことのある民宿を見つける。
勝手知ったるおれは、黙って入ってトイレに直行する。
便器わきに置いてあった釣竿をとり、、上等のパンを少し千切って丸めて、針先につける。
仕掛けを水洗便器に放り込んで、一気に水を流す。
小型リールの糸をどんどん繰り出す。
このトイレは、排水溝を通じて川と繋がっているのだ。

しばらく待つと、あたりがくる。
リールを巻き上げると、水洗便器の奥からピチピチ魚が出てきた。
魚を針から外し、再び上等のパンをつけてトイレに流す。
しばらくするとまた釣れる。
調子よく何匹か釣ったが、こんなんじゃないと思って、釣った魚を全部便器に流してしまった。
魚たちは排水溝を通じて川へかえって行ったことだろう。
おれは民宿を出て今度は下流の方に引き返す。
だんだん川幅は広がり、河原も広大になってくる。
たしかこの辺りには、人魚が出るという噂があった。
川面を眺めると、何か大きな尾鰭が跳ね、一メートルくらいある魚のようなものが、ふらふらと泳いでくる。
かなり弱っているようだ。
人魚を捕まえるチャンスだと思い、水の中にザブザブ駆け込む。
それに近づくが、プカプカ浮いているだけで動こうとしない。
おれは襲いかかって抱きつく。
鰓に手をかけて持ち上げてみると、何か気味の悪い顔をした鯉のような巨大魚だった。
これが人魚か。
