子どもだけでなく、大人も好きだ。
みんなとは言わない。
はっきり「オカルト嫌い」という層は一定数存在するが、「なんとなく興味がある」という程度のニーズは、常にそれを上回る。
広く一般の「なんとなくの興味」が最も強く反映されるTVの世界では、今も昔も変わらずコンスタントにオカルト番組が放映されている。
90年代半ば、カルト教団がテロ事件を起こした直後は、さすがにオカルト番組が放映されることは無くなっていたが、しばらく経つと「スピリチュアル」とか「都市伝説」等に衣替えして復活し、今に続いている。
私が子供時代を過ごした70年代後半から80年代初頭にかけては、TVのオカルト番組の盛り上がりが一つのピークだったのではないかと思う。
超能力、心霊現象、UMA(未確認生物)、UFO(未確認飛行物体)など、毎日のように取り上げられていた。
私が幼児期を過ぎて番組内容を理解できるようになった頃は、微妙に「超能力ブーム」は収束しつつあった。
スプーン曲げブーム直撃は、私たちの学年より少々上の「ちびまる子ちゃん」世代だろうけれども、他のテーマはまだまだ健在だった。
UFO番組で、浮遊しながら降下してきた異星人が生きた牛の臓器をホース上の装置で吸引する再現映像にショックを受けて、夏の夜に窓を開けて寝るのが怖かった記憶がある。
オカルト番組は夏に放映される機会が多かったのだ。
夏と言えば「怪談」というのは定番中の定番。
UFOも「怖さ」というジャンルの一つとして紹介されていたのだろう。
TV番組やイベントでは、夏の定番の範疇になぜか「恐竜」まで含まれていたりするが、これは「怖さ」というより「縁日」「見世物小屋」というジャンルで解釈すれば納得できる。
心霊系ではワイドショーの一コーナーで視聴者の恐怖体験を再現ドラマで紹介する「あなたの知らない世界」が人気で、これも夏休みになると連日放映されていた。
わざわざ夏休みにまとめて放映するのは、完全に子供ウケをねらってのことだったのだろう。
子供の頃視た心霊番組で今でも覚えているのは、「除霊」のシーンを再現ドラマではなく実際に収録した映像だ。
年配の女性に「蛇の霊が憑いている」という触れ込みで、祭壇を前にしたお坊さん(?)が経文を唱えると、その女性が苦しみだす。
両手を身体の前でつぼみのような形に合わせ、くねらせている姿を、「経文の力で蛇の霊が苦しんでいる」と解説されていたのだが、私は瞬間的に「あれっ? おかしいやん!」と違和感を持った。
何分子供時代のことなので、さほど論理立てて判断できたわけではないが、今言葉を補って当時の違和感を表現すると、以下のようになる。
もし女性に本当に蛇の霊が取り憑いて苦しんでいるなら、頭は頭として床に寝転がり、蛇のようにのたうつならまだわかる。
わざわざ手で蛇の頭の形を作ってくねらせるのは、おかしいのではないか?
これは演技をしているか、または女性本人が「蛇の霊に憑かれていると本気で思っている」かの、どちらかではないか?
完全なフィクションではないにしても、心の中だけで起こっている「事実」があり得る?
そんな印象を持ったのだ。
この時の強い印象はずっと残っていて、私の「霊」に対する受け止め方に後々まで影響した。
他にも、怖さは控えめで楽しめたのが、洞窟に潜入する冒険モノや、謎の生物を捜索する未確認生物モノだった。
往年の「水曜スペシャル」では、世界各地の秘境や未確認生物を探索して回る「川口浩探検隊」シリーズが人気で、大好きだった私は毎回必ずチェックしていた。
今振り返ると川口浩探検隊シリーズは、正しく「縁日」や「見世物小屋」の世界を継承したTV番組だった。
予告やプロローグで煽りに煽り、もったいぶった構成で引っ張りに引っ張るのだが、肝心の「モノ」は最後まで見せないことが多かった。
いきなり毒蛇が落下してきたリ、洞窟に白骨が散らばっている画面が頻出するのは、子供心にもちょっと疑問だったが、まだ「シコミ」という言葉は知らなかった。
(この探検隊は、けっこうアヤシイな……)
はっきりそう認識したのは、たぶん小学校高学年の頃のことで、「猿人バーゴン」を探索に出かけた回のことだったはずだ。
以下、当時の記憶をもとに端折って紹介してみよう。
ジャングルの中で目撃された謎の猿人を捕獲するため、探検隊はいつもの如く長尺の冒険(前フリ)を経た後、ついにバーゴン(?)を捕獲する。
ボロボロの服を着た蓬髪髭面の男が、奇声を上げながら探検隊を威嚇するが、到着したヘリに乗せられ飛び立っていく。
静かな表情で見送る川口隊長。
私はTV画面を呆然と見つめながら、心の中で叫んでいた。
(猿人ちゃうやん! 完全におっさんやん!)
古生物マニアでもあった私にとって、「猿人」の概念はけっこう厳密だったのだ。
翌日からはしばらく、友人や二つ下の弟と共に、やけくそ気味の「猿人バーゴンごっこ」に興じた覚えがある。
小学校時代の何かの文集に猿人バーゴンネタを書いたような気もするが、どうせろくでもないアホな文章であろうから、実家で発掘などはしないでおく。
と、ここまで書いて一応「猿人バーゴン」で検索をかけてみると、やはり当時の多くの子供の心に衝撃を与えた回であったらしい(笑)
興味のある人は検索!
個人的には「蛇の霊」と「猿人バーゴン」が記憶に残っているが、誰もがどこかの時点、何らかのきっかけで、オカルト番組の「仕掛け」に気付く瞬間があるのだと思う。
私の場合は他にも、小学校の校門前に物を売りに来るおっさんや、縁日の店先、「当てもん」の類で小遣い銭を巻き上げられたりしながら、ウソとマコト、世の中の仕組みについて、色々学ぶところはあった。
小学生時代の私の当てもん修行については、以前にも記事にしたことがある。
「当てもん」の達人1
「当てもん」の達人2
「当てもん」の達人3
世の中には「虚実の狭間を読む楽しみ」というものがあり、オカルトやプロレスはその最たるものだ。
それは、「完全なリアル」ではない。
それは、「完全なフィクション」でもない。
全肯定と全否定の間にグラデーションがあり、結論が出ないことに面白さがある。
その面白さは、私の場合は徐々にTVよりも本の中に強く感じるようになって行った。
子供時代を過ぎた80年代半ば、中高生になる頃には、オカルト的なテーマを扱う文章やマンガに心惹かれるようになった。
今もそうだが、「怖い本」の多くは「黒」を基調としたデザインであることが多い。
書店で黒い背表紙の並ぶ一画を探せば、そこにはたいてい怖い本が並んでいるものだ。
ということで、私が80年代に通過してきたオカルトサブカルチャーの一部を、「黒い本棚」の章として紹介してみたい。
しばしお付き合いを。
(続く)