2007年03月31日

本の中の本

 子供の頃から、図書館が好きだった。
 とくに革張りの背表紙の並んだ、人気の少ない百科事典や専門書の一角には身震いするほど興味を惹かれた。宇宙の真相が全てその一角に詰まっているような気がして、(そんな必要は全く無いのだが)周りに人が居ないことを確かめてから、中の一冊をそっと抜き出してみたりした。神話伝説の研究書など、子供の読解力をはるかに超えた本を、背伸びしながらひそかに拾い読んだりしていた。
 また、私は子供の頃から漢文のお経を読む機会が多かったのだが(カテゴリ「原風景」参照)その時も「こうしてずっと読み続けていると、いつか漢文の意味がわかるようになって、物凄い秘密が明らかになるのではないか」と想像し、ちょっと怖くなったりしていた。実際、小学校高学年くらいになると、漢字のイメージからなんとなくお経の意味がわかり始めていた。
 こういうお経や聖書などの分厚い本の中には、この宇宙の真相が余すところなく記述された、決定版の一冊があるのではないか?
 子供の頃の私は、心のどこかでそんな「本の中の本」の夢を追っていたのかもしれない。

 時は流れて私は大人になり、昔ほど無邪気ではなくなったので、「決定版の一冊」なるものがこの世に存在しないことは知っている。しかし、それでも「本の中の本」に対する憧れは残っている。
 こうした憧れが、私などよりもっと過剰に発現すれば、三蔵法師のように命をかけて経典を求める旅に出たり、出口王仁三郎のように膨大な教典をたった一人で口述してしまったりするのだろう。
 私自身はそこまでの過剰さはなく、今のところは一般人として入手・閲覧できる範囲の書物に目を通し、絵に描くぐらいで済んではいる。

 このカテゴリでも紹介してきた由来物語によれば、「金烏玉兎」はまさに「本の中の本」としてイメージされていることがわかる。私も断片的にこの書名を目にしたことがあったのだが、あまりに神秘的な紹介の仕方をされていたので、てっきり架空の書物だと思い込んでいた。
 ところが驚くべきことに、この「金烏玉兎」は現存しており、しかも現代語訳された安価なものが書店で売られている。
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2007年04月26日

道仏習合

 中世陰陽師の百科全書的書物である「金烏玉兎 巻ノ二」には、日本の記紀神話とも仏教の須弥山宇宙観とも異なる、独自の創世神話が語られている。
 中国各地由来の様々な神を陰陽五行説に当てはめて構成し、さらに仏教の宇宙観を接合してあり、「龍」に表象されるエネルギーが天地を縦横無尽に駆け巡り、神や自然や人間を生み出して行く、中々壮大な神話になっている。

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 基本は中国神話なので、道教の物の見方が中心だが、日本で構成されたものらしいので微妙に日本風の改変らしきものも見られる。陰陽五行の考え方を理解するに当たって、中世陰陽師は理論を「ものがたり」に変換しつつ受容していったのだろう。
 海外の文化を、自分の好みのかたちに巧みにアレンジして我が物とするのは、今も昔も変わらぬ日本人の得意技だ。

 陰陽師の使う占術の詳しい内容は「金烏玉兎」の現代語訳を参照してもらうとして、当ブログでは創世神話の部分を、絵と文章で紹介してみたいと思う。
 掲載するイラストは「金烏玉兎」の文面に登場する神名を、中国神話の図像として現存するものと組み合わせつつ、私が独自にブレンドしたもので、我ながらやや強引な組み合わせもしており資料的な価値は薄いと思われる。
 伝説の書物「金烏玉兎」をネタにした、一幕の紙芝居と言ったところになるだろう。
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2007年04月27日

金烏玉兎の創世神話1

 中世陰陽師の百科全書「金烏玉兎」には、独自の創世神話が語られている。主に占術の内容を記述した本なので、神話を語る文章そのものの分量は少なく、記述も簡潔なのだが、当ブログではこれに焦点をあてて絵解きを試みたい。

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 「世界が始まる前」の状態をどのように描くかという部分には、様々な創世神話の特徴が出るので興味深い。「金烏玉兎」ではその様子を、天地未分の鶏の卵のような丸い状態であったと説く。
 さらにその状態を、仏教でいう胎児の初期段階の言葉を借りて「最初の伽羅藍(かららん)」と表現する。擬人的に捉えているのは、この直後の世界が生じる描写に繋がる。

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 次の段階として、広大な天と地が一気に展開される様子が描かれる。ここでは「天は円形、地は方形」として捉えられている。
 この「天は円形、地は方形」というイメージはアジアに広く存在するようで、仏教のマンダラの円と正方形の組み合わせや、日本の前方後円墳にも似ている。

 このように展開された広大な天地に、一人の巨人が鎮座する。
 「金烏玉兎」の主宰神とも言えるこの神の名は……
posted by 九郎 at 22:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 金烏玉兎 | 更新情報をチェックする

2007年04月28日

金烏玉兎の創世神話2

 最初の伽羅藍から天地が開けたとき、そこに鎮座した巨人の名は「盤牛王(ばんごおう)」と言う。「金烏玉兎」では「盤牛王」の表記だが、中国神話では一般に「盤古(ばんこ)」と呼ばれる。
 よく知られた図像では、微妙に角のようなものが見える平らな頭、木の葉の衣、胸の前に両手で太極図を構え、岩に座した異相の神で、今回はその図を元に「盤牛王」を描いてみた。

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 盤牛王は「宇宙そのもの」として表現されており、説明として使用される言葉は仏教の須弥山宇宙から引用されている。

 丸い頭部は、最高位までを含む「天」
 四角い脚部は、金輪際まで含む「地」
 左手は、須弥山を囲む東の大陸
 右手は、須弥山を囲む西の大陸
 顔は、須弥山を囲む南の大陸
 尻は、須弥山を囲む北の大陸
 腹は、四つの海
 胸は、須弥山に燃える猛火
 左の目は、太陽
 右の目は、月
 呼吸は、季節の変化
 吹き出す息は、風雲
 吐き出す声は、雷

 このようなスケールで重ね合わせて盤牛王の巨大さは説明されている。

 盤牛王の原型である「盤古」の場合は、中国一地域の素朴な原始巨人伝説で、元はこのような須弥山宇宙観との習合は行われていない。原型を生かしつつ、当時最新だった宇宙観と結びつけて理論化が行われたらしい。

 盤古は日本でも陰陽道の影響が強い一部地方などで、よく知られた神名だったらしい。現在の岡山県の一部にあたる地域に伝わる民俗芸能「備中神楽」には、「万古(ばんご)大王」というキャラクターが登場する。
 「五行神楽」または「王子神楽」と呼ばれるこの演目は、万物を生み広めてきた万古大王が、その死期にあたって四人の王子と対話し、次に生まれてくる五人目の子の扱いをを巡って物語が進行して行くという筋立てだ。
 この神楽のストーリーは、「金烏玉兎」の神話における「盤牛王」の五人の息子たちの物語とも相似したものになっており、陰陽道が民衆に与えた影響がわかる事例だ。

 備中の国では江戸時代に金光教が登場していることも、一言メモしておこう。
posted by 九郎 at 21:27| Comment(0) | TrackBack(1) | 金烏玉兎 | 更新情報をチェックする

2007年04月29日

金烏玉兎の創世神話3

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 中世陰陽師の伝説の秘伝書「金烏玉兎」には、盤牛王という創世神の身体が、世界の万物そのものとして生まれる様子が描かれている。
 盤牛王の持つエネルギーは龍の形でイメージされ、地上に展開される様々な地形の中に、姿を千変万化させながら潜んでいると説明される。例として、以下のようなものが挙げられている。

 左・・・・・青龍の「川」
 右・・・・・白虎の「園」
 前・・・・・朱雀の「池」
 後・・・・・玄武の「山」

 大地に潜むエネルギーを「龍」として捉え、四方を聖獣で喩える点は「風水」の考え方にも通じる。元々陰陽道は中国起源の陰陽五行思想が、仏教説も交えて日本で成立したものなので、そこには当然「風水」も含まれ、第四巻には日本流に簡略化された家相説が解説されている。
 現代まで続く家相の考え方には、金神などの根拠無き迷信も多いのだが、自然の地形と人間の暮らしの折り合いをつけるための知恵として、見るべきものは十分残っている。
posted by 九郎 at 10:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 金烏玉兎 | 更新情報をチェックする