ふと手にした一冊が意外に面白くて、それまで興味のなかった宗派のことを調べ始めることもよくあった。
ずっと前、何気なく手に取った白く簡素な冊子が一冊。
パラパラめくってみると、中ほどにどうやら創世神話を語っているらしい一章があった。大まかなストーリーは以下のようなものだった。
この世の始まりは泥海
それを味気なく思った月神と太陽神は
泥海の中から魚と巳を引き寄せて、男と女の元とした
シャチ、カメ、フグ、ウナギ等の生き物を引き寄せて、
体の様々な働きを作り、ドジョウを魂とした
小さな人類が生まれては滅び、
最後にメザルが一匹残った
それが今の人間の祖先である
読み進めると、昔どこかで聞いたことがあるような、懐かしい感じがした。
その簡素な冊子「天理教教典」は、当時百二十円ぐらいだった。
江戸末期、中山ミキによって創始された天理教は、とくに関西ではそれなりに信仰されており、親類縁者の中に一人くらいは関係している人がいてもおかしくはないのだが、私自身はとくに何の関わりもなかった。
それにも関わらず、この「泥海神話」に懐かしさのようなものを感じたのは、田んぼと古生物図鑑に囲まれて育ってきた原風景のせいだろうか。
興味をひかれて更に詳しく調べてみると、「天理教教典」の神話の記述の元になった、「泥海古記」という不思議な書物が在るらしいことを知った。
この書物「泥海古記」は「どろうみこうき」と読み、「こふき」と表記されることもある。
教祖・中山ミキが折に触れて語った創世神話を、古い信者が書きとめたものであり、筆者や年代によっていくつかの異本がある。
もっとも流布されたものは、教祖の「お筆先」に似せた和歌体で書かれたものだが、結局教祖の納得した内容のものは完成しなかったらしい。
明治憲法下では記紀神話以外の神話体系は認められず、天理教はこの泥海神話が原因で何度かの弾圧を受けた。そのため「泥海古記」は厳重に隠蔽されて、実態のつかみづらいものになってしまった。
弾圧の恐れのなくなった戦後、ようやく復元された内容が、現教典の第三章「元の理」である。
このカテゴリ「泥海」では、興味深く懐かしい感じのする天理教の泥海神話について、絵物語「どろのうみ」として紹介していきたいと思う。
私は宗教団体としての天理教とは関わりは無く、布教するものではない。今までこの「神仏与太話ブログ」でカタッてきた内容と同じく、極私的に解釈したものであることを、あらかじめお断りしておく。
【著作権について】
このカテゴリでアップする作品「どろのうみ」は、以下の資料を参考に構成している。
●「泥海古記」
明治十四年和歌体本、その他諸本。(中山正善「こふきの研究」収録)
●「天理教教典」第三章「元の理」(昭和24年発行)
●その他、各種教義解説
このうち、原典である「泥海古記」「天理教教典」ともに、団体名義の著作物であるとすると、既に発表後50年以上が経過しているので、保護期間は過ぎているものと判断される。
当ブログの絵物語「どろのうみ」は、オリジナルのイラストと原典を参考にした文章で構成しており、原典そのものをアップしたものではないが、一応確認のために付記しておく。
【無断転載について】(2011年6月17日追記)
このカテゴリ「泥海」にYoutubeの中島みゆき動画からリンクが貼ってあり、記事中で紹介した「泥海神話」のあらすじがそのままコピペされているようです。
私はその動画投稿者とは一切関係なく、コピペされたあらすじは無断転載です。
また、同一人物だと思われますが、yahooブログにもこの記事中に掲載したイラストを(縦横比を改竄した形で)無断転載し、こちらのカテゴリにリンクしている模様です。
当方とは一切関係ありませんので、その点誤解の無いよう付記しておきます。