当麻寺から帰ってきて、折口信夫「死者の書」の文庫本を押入れの奥から引っ張り出し、読んでみた。
私が持っているのは古い中公文庫を古書店で入手したもので、「死者の書」と「山越しの阿弥陀像の画因」が収録されている版。現行の文庫版とは構成が違うようだ。
ずっと昔入手して以来、読みたい読みたいと思いながら、今まで手を出せずにいたが、先週当麻寺から帰ってきてから手にとってみると、すーっと自然に読み通すことが出来た。二上山麓の空気が作品の持つ雰囲気と同期して、やや難解な作品の通読を助けてくれた。
死者のヨミガエリから語り起こされる物語は、冥く、濃密だ。
二上山に沈む夕日
非業の皇子の墓場
修験者の招魂
憑かれた姫
山越しの阿弥陀
当麻曼荼羅
ばらばらに紡がれた伝説の糸の一本一本が、ある日姫が山の端に見た幻想を軸に、一つの刺繍に織り上げられる。織り上げられた作品は、著者によって読み替えられた独創ではある。しかし二上山麓の空気を実際に感じてみると、どうしてもこの物語こそが伝説の真相で在ったと思えてならなくなってくる。
「した した した。」
作品冒頭に描かれる地下水の滴りとともに、死者の思いがむっくりと起き上がってくる。二上山の雄岳と雌岳の狭間に、よみがえった死者が重なって映る。
かつてこんなことがあり、今もそれは続いていると、思えてならなくなってくる。
今後も折にふれて読み返したくなるであろう、大切な作品になった。
折口信夫「死者の書」は、ネットの青空文庫で読むこともできるので、紹介しておこう。
「死者の書」「山越しの阿弥陀像の画因」 紙の本がよく似合う作品ではあるけれど。