blogtitle001.jpg

2018年07月02日

「隠れキリシタン」関連記事まとめ

 先日、長崎の「潜伏キリシタン」文化財が世界文化遺産に認定されたとの報道があった。
 そう言えばブログで何度か「隠れキリシタン」についての記事を書いたことがあったなと思い出し、関連記事をまとめておくことにした。
 まとめるにあたって少し調べてみると、厳密には「潜伏キリシタン」と「隠れキリシタン」は区別して定義されているようだ。
 私の関心の対象は日本の土俗に深く沈潜し、習合した「隠れキリシタン」の方なので、今回のまとめでもこの言葉を用いる。

 これまでに投稿した記事を集成してみよう。

---------------

 びるぜんさんた丸や

 キリスト教のことはほとんど知らない。
 このブログでよく取り上げる仏教や神道、道教についても、専門に学んだわけではないので「本当に理解しているのか」と問われると困るのだが、知識としてはある程度持っている。
 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教と言った旧約聖書の世界を母体とする教えについて、もちろん興味はあったのだが、なかなかそこまで手が回らずにいた。
 ただ、キリスト教の流れをくむ、日本の「かくれキリシタン」の信仰については、いくらか調べてみたことがある。
 特に独自の創世神話である「天地始之事」に描かれる世界はとても魅力的で、繰り返し何度も読んだ。
 一応聖書の神話がベースになっているものの、「天地始之事」は非常に日本的なアレンジになっていて、素晴らしい物語世界だ。
 中でも生き生きと描かれているのが「びるぜんさんた丸や」というヒロインで、このキャラクターは「聖母マリア」に相当する。

 天帝でうすが苦しみの中にある人類を救うため、自らの身を分けるために選んだ少女・丸や。
 あんじよさんがむりあ(天使聖ガブリエル)の受胎告知を受けた丸やに、でうすが蝶の姿になって口から入りこみ、処女懐胎が成就する。
 王様のプロポーズも断り、父のわからぬ懐妊に両親から家を追われ、丸やの苦難の旅が始まる。
 身重の旅路の中、大雪に降られ、しかたなく牛馬の小屋に入りこんで寒さをしのいでいるうちに産気づき、ついに「御身様」を誕生させる。
 寒さの中の新生児を気の毒に思った周囲の牛馬は、息を吐きかけて赤ん坊を温め、食み桶で産湯をつかわせてやった。
 そして暁になると家主の女房が母子を発見、家の中に招じ入れて、様々に親切な施しを与える。

 原典の聖書神話にはない、細やかな情に満ちたイエスの誕生シーンの細部描写だ。
 丸やの苦難はこの後もまだまだ続くのだが、新しい命の誕生、極寒の中の温もりのイメージは、読んでいるとこちらも優しい気分になってくる。
 貧しい暮らしと苛烈な弾圧の中、信仰を守ってきた人々の思いが伝わってくるようだ。

season-105.jpg


 今回の図像は隠れキリシタンの御神体の中から、聖母子像を元に再現している。
 元図はおそらく専門の絵師ではなく、ごく普通の信徒が心をこめて描いたであろう素朴なもの。
 何パターンかの「聖母子像」があるが、いずれも「丸や」は赤ん坊を抱き、十字をアクセサリーにつけ、月または日月の上に立った姿で表現されている。
 胸元はゆったりくつろげられているものが多く、はっきり乳房が描いてあったり、赤ん坊が授乳している姿のものもある。
 
 絵描きのはしくれとして自分でも描いては見たものの、やはり思いのこもった元図には遠く及ばない。
 興味のある人は以下の本で。
 各種図像と詳細な解説、「天地始之事」全文も収録されている。



●「かくれキリシタンの聖画」谷川 健一 中城 忠(小学館)

 ヒロイン・丸や以外にも、様々な魅力的なキャラクターが登場する。
 堕天使ルシフェルも、「七人のあんじよ頭じゆすへる」として登場し、天帝に反旗を翻した結果「鼻ながく、口ひろく、手足は鱗、角をふりたて」た姿に変わり果て、「雷の神」にされてしまう。 じゆすへるを拝んだあんじよも全て、天狗に変わって天から落ちてしまう。
 
 ともかく、一読の価値あり。

 隠れキリシタンに伝承された音の世界も、とても良い。



●生月壱部 かくれキリシタンのゴショウ(おらしょ)

--------------

 諸星大二郎「生命の木」

 諸星作品が好きだ。
 どのくらい好きかと言うと、たとえば今住んでいる部屋の窓から外をのぞくと、隣のビルの屋上に何か植物の葉っぱが見えて、風に揺れているのだが、

moro01.jpg


 その葉っぱを見ていると、なんとなくこんな鉢植えが置いてあるのではないかと、妄想してしまう自分がいる。

moro02.jpg


 それぐらい好きだ。

 諸星大二郎の代表作に「妖怪ハンター」シリーズがある。
 民俗学の研究者稗田礼二郎が、日本各地でフィールドワークを行う中、数々の怪事件に遭遇する連作短編のシリーズで、当ブログでも何度か紹介してきたことがある。

 祭の始まり、祭の終り
 六福神

 今回紹介するのは、妖怪ハンターシリーズ第一集「海竜祭の夜」の中から、「生命の木」という作品だ。



「生命の木」
 前回記事で紹介した隠れキリシタンの神話世界をベースに、舞台を東北の山村に読み替えて、ある殺人事件から壮大な神話体系がこぼれてくる様を描く、諸星作品の真骨頂。
 わずか31ページの短編であること、まだデビューから年月の経っていない初期作であることが信じられないくらい濃密な物語だ。
 近年「奇談」というタイトルで阿部寛主演の映画が制作され、概ね好評のようなのだが、まだ未見。原作があまりにも素晴らしすぎると、実写化作品を観るのには、自分で高いハードルを設定してしまうのは仕方がない。
 おそらく諸星大二郎は、隠れキリシタンの聖書「天地始之事」を貪るように読み込み、その内容に震えたのだと思う。
 ローカルを極め尽くしたことで逆に広がる巨大な世界観、隠された信仰の底知れない闇が生み出す強烈な光に打ち震え、そしてその「震え」を自らのペンで紙に叩きつけるようにして出来上がったのがこの作品なのではないだろうか。
 因習めいた山村の奇怪な殺人事件が生み出す、まばゆいばかりの聖なる世界。

 上掲作品集は現在入手困難なようなので、一応「生命の木」が収録されている本の中から比較的入手しやすいものも紹介しておく。


●「汝、神になれ 鬼になれ (諸星大二郎自選短編集)」(集英社文庫)

---------------

 石川淳「至福千年」

 古書店のワゴンセールなどで目にとまり、さほど緊急性はないけれども、安いので一応確保していた類の本がある。
 いずれ読もうという気はあるのだが、日々の雑事や優先度の高い読書に阻まれて、なかなか手が出せないうちに十年二十年と経ってしまったりする。
 しかし、そろそろ「いずれ読もう」という言葉の頭の、「いずれ」の部分が、残り少なくなってきた年齢である(笑)
 二年ほど前から、なるべくそうした本に手を伸ばすよう心がけ、このカテゴリ積ん読崩しでも覚書にしてきた。
 今回は以下の本。


●「至福千年」石川淳(岩波文庫)

【表紙紹介文の引用】
内外騒然たる幕末の江戸、千年会の首魁・加茂内記は非人乞食をあやつって一挙に世直しをと狙っていた。手段選ばぬ内記に敵対するのはマリヤ信仰の弘布者・松太夫。これら隠れキリシタンたちの秘術をつくした暗闘のうちに、さて地上楽園の夢のゆくえは――。不思議なエネルギーをはらむ長篇伝奇小説。(解説=澁澤龍彦)

 上記紹介文にもある通り、聖と賎、隠れ信仰、世直し、神懸り等の私好みのテーマを扱っているが、語り口はあくまでアクション中心の通俗伝奇小説である。
 奥付によると初出は昭和42年なので、アクション等のエンタメ要素だけを今の目で見ると、かなり簡素な印象を受ける。
 この50年、エンタメ作品はアクション描写をひたすら進化、肥大化させ続けてきたのだなと感じる。
 今同じ内容をメジャーな媒体で作品化しようとすれば、もっと長大な尺が必要になるはずだが、その分、アクションで装飾されたテーマの核心部分は散漫になってしまうかもしれない。
 マンガや小説のエンタメ作品の長大化がそろそろ限界を迎えている現在、ほど良い描写密度を考えるのに良い作品だと思った。


-------------

 紹介した創世神話「天地始之事」については、いまでも「絵解き」してみたい意欲はある。
 なんらかの形にできるといいなあ。
posted by 九郎 at 21:53| Comment(0) | ブログ・マップ | 更新情報をチェックする

2018年08月02日

夏休みの工作まとめ(最新2018年版)

 夏休み真っ盛り!
 そろそろ工作関連記事へのアクセスが伸びてきました。
 当ブログはもちろん「神仏与太話」がメインの話題なわけですが、随時、工作的な作品の記事もアップしています。
 私としてはほんの息抜きのつもりで上げてきたのですが、アクセス解析を日々眺めていると、メインテーマの記事よりも、そうした季節のおりがみや工作紹介の方が、アクセス数が伸びたりするのがなんとも複雑な心境です(笑) 
 例年7月の後半から8月にかけては、夏休みの工作のネタ探しで検索してこられる皆さんが多いので、まとめ記事にしておきましょう。

【工作の基本素材】
 ホームセンターへ行こう!
 工作キットも良いですが、ホームセンターで端材の詰め放題を利用し、自由に作ってみるのがまずはお勧め。

umi-44.jpg


 挽き廻しタイプのノコギリが一本あると便利。

●OLFA カッター挽き廻し鋸 217B
 少し大き目のカッターと挽き廻しノコの二種類が一本になっている。
 日常の軽作業や工作に便利。

 着色には木材やプラスチックなど、素材を選ばないアクリル絵具を。

●サクラクレパス 工作用アクリルえのぐセット 10色(金銀入)
 パレットになるケースに、筆もセットされている。
 筆はちょっと使いにくいかもしれないので、ペンキ用の刷毛などを別途購入がお勧め。

【船の工作】
 船の工作まとめ
 海賊流行りが継続中なので、お手軽に作れる工作セットをご紹介。

●「海賊船キット(海洋ものがたり)目指せワンピース【ひとつなぎの大秘宝】」エコール教材 

umi-09.jpg

 夏休みの工作にまずは普通の海賊船を!
 上掲の海賊船工作キットのパーツをそのまま使用して作ってみました。

umi-27.jpg

 夏休みの工作「鉄甲船」ようやく完成!
 海賊船工作キット+「アイスの棒」で制作しています。アイスの棒は実際に工作できるほど短期間に集めようとするとお腹に悪いので(笑)、セット販売もあります。

 最近は100均でもアイスの棒のまとめ売りはあるようですので、まずはそちらからでもいいと思います。

 お手軽な船の工作キットとしては、他に以下のようなものがあります。


●「自由工作キット シップ6」加賀谷木材
umi-33.jpg

 上掲海賊船工作キットは、いかにも「工作」という感じの仕上がりですが、こちらは多少リアルな感じの完成品が作れるようです。
 同セットで、箱写真のような6種類の船の中から一つ選んで作ることができます。
 各種棒や角材がたっぷり入ったセット内容なので、工夫次第でそれ以外にも自由に作れます。
 小学校高学年以上で、図工の得意な人向けですね。
 工作から一歩進んで「模型」に近づいていきたい人にお勧めです。


●「自由工作キット ペットボトルシップ」加賀谷木材
umi-34.jpg

 ボトルシップというと、ちょっと難易度が高そうなイメージがあると思いますが、このキットはさほど難しくなく、雰囲気のある作品が完成させられます。
 このキットを入り口に、本格的なボトルシップ制作に進んで行くことも、十分可能だと思います。

 記事中紹介したキットは一応amazonのリンクを貼ってありますが、お近くのホームセンターやスーパーの夏休み工作コーナーで、もう少しお安く売っている場合があると思います。
 夏休み後半になると、更に値引きもありかもしれません。

 それから、あまり子供の「夏休みの工作」向けではありませんが、昨年は補陀落渡海船を作りました。

umi-40.jpg


【手作り楽器】
 カテゴリ音遊びでは、手作り楽器も色々紹介してきました。

 手作り楽器まとめ

 よく作ってきたのは、安価なウクレレキットです。
 縁日ウクレレ

●大人の工作キット ウクレレ BOOK <組み立てウクレレ付>
 このセット、手頃な価格で手作りウクレレが楽しめ、ブックレットもそれなりに充実した内容なので、悪くはないのですが、購入の際は少々注意点があります。
 まず、木工をやったことがない人には組立も塗装もけっこう難しいだろうと言うこと。
 一応完成させることは誰にでも出来ると思いますが、精密な「楽器」レベルにするのは難易度が高くなるので、「そこそこ遊べるオモチャウクレレ」程度に考えておいたほうが良いでしょう。
 夏休みの工作の素材としてなら十分です。

 同包のウクレレキット自体は、学校教材メーカーが販売している以下のものと、たぶん同じ内容。

●木工芸 工芸ウクレレ作り(アーテック)
 値段から分かると思いますが、木材は全てベニヤや集成材で、他のパーツもそんなにいいものはセットされていません。
 私は同じメーカーでもより自作度の高い、以下のセットをよく作っています。

●木工芸 ウクレレ作り
●創作ウクレレ

 これらのセットは、一応弾いて遊べる程度のオモチャウクレレを、とにかく低価格で入手できることができるのが取り柄です。
 私はこの十年ほど同じセットで色々作り続けてきましたが、残念ながら品質は年々落ちてきています(悲)
 木材はけっこう当たり外れがあって、たまにネックの材が「まさかこれバルサじゃねーの?」と舌打ちするほどスカスカだったり、側面版が薄すぎて開封すると既に折れていたりするので注意。
 固定用のゴムバンドが劣化していてちょっと伸ばすだけでバツバツ切れたりすることも、過去にはありました。
 指板は「単に黒いプラスチック板」ですが、一応フレットは使えるレベル。
 付属の弦はなんだか釣り糸みたいな感じなので、市販のウクレレ弦を別途購入して張った方が良いでしょう。
 ちゃんとした楽器を期待すると失望しますが、そのかわり価格が安いので失敗を恐れず、思い切った工作やペイントを楽しむことができます。
 私の作例としては、以下のような「縁日ウクレレ」があります。

nari-04.jpg


 ここ十年ほど作り続けてきた上掲のウクレレ・キットですが、最近また値上がりした模様。
 円安誘導のアベノミクスは、工作素材の大敵です!!
 十年前は1200円程度で入手できていたのが、5年ほど前、1500円程度に値上がり。
 今年度は定価2000円以上になっているようですね。
 それでも現状、お手軽なウクレレキットを探すなら、やっぱりこれになるかなあ……

 この二年ほどは、上掲のウクレレキットがかなり値上がりしてしまったので、もっと安く簡単に作れるオモチャ楽器はないものかと、百均の木箱を使った弦楽器作りを色々試していました。

 夏休みの工作向けの作例は、こちら。
 百均ボックス三味線
nari-18.jpg


【プラ鉢鎧兜】
waka-26.jpg
waka-27.jpg

 
 100均やホームセンターで売っているプラスチック製の植木鉢から、鎧兜を作りました。
 参照記事は以下に。
 雛形工作:プラ鉢鎧兜
 プラ鉢鎧兜 制作覚書

 よろしければ、各記事でより詳しい解説を参照してください!
posted by 九郎 at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ブログ・マップ | 更新情報をチェックする

2018年08月06日

マンガ「はだしのゲン」関連記事集成

 本日は8月6日。
 第二次大戦中、アメリカによって広島に原爆が投下され、何の罪もない非戦闘員が大量虐殺された日である。
 核という最悪の兵器が、非戦闘員の大量虐殺を目的に実際に使用されたのは、今のところ人類史上で日本の広島と長崎のみ。
 しかし核兵器自体は性能を格段に向上させながら、世界中に拡散し続けている。

 毎年この時期になると、当ブログで何度か投稿してきたマンガ「はだしのゲン」関連記事へのアクセスが延びる。
 これまでの関連記事を再編したまとめを、再浮上させておきたい。
 
 
 マンガ「はだしのゲン」の作者である中沢啓治さんは、2012年にお亡くなりになってしまった。
 その何年も前から、視力が弱っていてもう漫画は描けなくなっていたことは知っていた。
 だから長らく構想中だった「はだしのゲン」の第二部、東京編がついに描かれなかったことについては、覚悟はできていた。
 それにしても、子供の頃から読み耽ってきたマンガの作者の訃報を耳にすると、強いショックは感じた。
 
 よく言われることだが、「はだしのゲン」は、作品の周囲にまとわりつく政治性によって毀誉褒貶の激しい漫画だったが、そんな雑音を超えて読み継がれるべき価値のある名作だった。
 ここに紹介されている呉智英の「不条理な運命に抗して」と言う一文に、そのことは的確に表現されている。
 以下、一部引用。
  
 私は他の場所で書いたことがある。「はだしのゲン」は二種類の政治屋たちによって誤解されてきた不幸な傑作だと。
 二種類の政治屋とは、「はだしのゲン」は反戦反核を訴えた良いマンガだと主張する政治屋と、反戦反核を訴えた悪いマンガだと主張する政治屋である。


 私も作品内に一部含まれる「政治性」は、描かれた時点の「時代の空気」みたいなものであって、そこを云々することに大した意味は無いと考えている。
 それはたとえば平安時代の文学作品に対して「方位や日時の吉凶を気にしてばかりいるのは誤った迷信である」などと批判することが無意味であるのと同様だ。
 この作品の凄みは、作者自身が実体験として潜り抜けてきた、戦中の軍国主義や原爆の惨禍、そして国が「国民の生命と生活を守る」という正統性を失った戦後の混乱期の描写が、どれも間違いなく「本物」としての質量を備えているということにあり、その点において空前絶後の漫画作品なのだ。
 それも、現実の悲惨さのみを強調するのではなく、生きるためなら罪を犯すこともいとわず、あくまで明るく「ガハハ」と笑いながら戦中戦後を駆け抜ける爽快さがあり、「生きのびる」ということに対する大肯定があるところが凄いのである。
 こうした爽快さがあってこそ、昨今の「サヨク排斥」の風潮が強いネット掲示板の中においてすら、「はだしのゲン」は根強い人気で年若い読者の心をいまだにつかみ続けているのである。

 私はネットをはじめてそろそろ十五年になろうとしているけれども、その最初期に某巨大掲示板の「はだしのゲン」テーマのスレッドを読み、そのあまりのカオスぶりにのけぞってしまった記憶がある。
 何しろ書き込みの大半が広島弁で、無意味に「ギギギ…」とか「ラララ…」とか「ラわーん」とか「くやしいのう、くやしいのう」「おどりゃ、クソ森!」などのレスが連なり、それでも作品への愛情に満ちていて、たまに訪れるネット右翼的な荒らしに対しても「きたえかたがちがうわい!」と余裕の対応を返す、素晴らしすぎる雰囲気だった。
 そうしたネット住人の「悪乗りも含めた作品への愛情」は、「はだしのゲン」の公式サイトにも濃縮されて刻み込まれている。
 子供の頃、一度でも読んだことのある人なら抱腹絶倒まちがいなしの、異常な公式サイトである。
 もう一度書くけど、これ、ファンサイトじゃなくて「公式」ですよ!
 中でも、「はだしのゲン」のあらすじをAAで再現し尽くした「はだしのゲソ」は感動モノとしか言いようがない。
 作者である中沢啓治さんは作中のゲンのイメージそのままに、組織嫌いで頑固な一匹オオカミであったが、ファンに対しては限りなく寛容だったのだ。
 
 結局「はだしのゲン」は戦後の広島編までが描かれ、生き残ったゲン、隆太、勝子それぞれが東京に旅立つシーンで完結となった。
 もし続きが描かれたとしたら、ゲンはおそらくこの後も様々な苦難に遭遇しながらも、絵描きとして身を立てていったことだろう。
 少し心配なのが、隆太だ。
 願わくば、再びヤクザの鉄砲玉になってしまっていませんように……
 隆太なら、戦後広島編でも才能を発揮していた「啖呵売」の腕がある。
 あの才能があれば、たとえば葛飾柴又あたりのテキ屋の親分さんに見出されるかもしれないし、年代的には寅さんとも面識ができていたりするかもしれない。
 そんな妄想とともに、中沢先生の死を悼んだことを覚えている。

 マンガ「はだしのゲン」と、その関連書籍の主なものは以下の通り。

●「はだしのゲン」汐文社版
 他の版は表現に一部修正があるそうなので、「昔読んだものをもう一度読みたい」という場合はこれ。
●「はだしのゲン自伝」
 著者中沢啓治の自伝。「はだしのゲン」は、事実そのものではないものの、元々著者の自伝的な作品なので、描かれなかった続編をあれこれ想像するヒントがここにある。
●「絵本はだしのゲン」
 マンガ版を元に、原爆投下前後をフルカラーで再現した取扱注意な一冊。

 昔は学級文庫にも「ゲン」や「カムイ伝」などの強烈な作品が置かれていたものだが、今はもうそんなことはないのだろうなあ……
 広島の原爆資料館のマネキン人形も撤去されたと聞く。
 3.11後の日本で、今後ますます大切になってくる作品だと思うのである。
 
 この時期になると、コンビニに漫画「はだしのゲン」の廉価版がよく並んでいた。
 かなり以前から恒例化していて、確か刊行されていない年もあったと思うのだが、ほぼ毎年店頭にあった。
 昔の「週刊少年ジャンプ」掲載分の「第一部」のみが集英社から刊行されることが多かったが、続編に当たる「第二部」も中公から廉価版で出されていた年もあった。
 今年はまだ見ていないが、そろそろ棚に並ぶかもしれない。

 何年か前、学校や図書館からの排斥運動が起こったりもしているけれども、何か騒ぎが起きる度に注目が集まり、逆に本は売れ、読者は増え続けている。
 世の中にはいじればいじるほどでかくなる不死身の怪物が存在する。(やや下ネタでスマン)
 漫画「はだしのゲン」もまさにそうした生命力をもつ怪物で、焚書しようと下手に手を出せば、必ず逆効果になる。 

 色々と議論はあっても、作品が数十年にわたって読み継がれるのには理由がある
 単純に、漫画としてむちゃくちゃ面白いのだ。

 反戦反核の内容であるということは、読み継がれている理由の一要素に過ぎない。
 内容が「重要だ」という理由だけでは、多くの人はわざわざ作品を手にとったりしない。
 人は日々生きることに忙しく、いくら重要な事柄が描かれた作品であっても、その重要さだけを理由に鑑賞する意欲を持つのは、よほど真面目な人だけである。
 唯一「読んで面白い」という要素だけが、多くの読者の財布の紐を緩ませ、ページをめくる時間を割かせるのである。

 作者の中沢先生には、そのあたりのことがよく分かっていたのだろう。
 大切なことを描いているということ自体に寄りかからず、甘えず、漫画としての面白さを保持しながら、血を吐くような自信の思いを込めて作品を紡ぐという離れ業をやってのけたのだ。
 その背景にはおそらく、原爆が投下された地獄の広島を、誰にも頼らず生き抜いてきた経験があったことだろう。
 地べたを這いずる庶民の乾いたリアリズムが、作品の内容にも制作姿勢にも貫かれているからこそ、エンターテイメントとして優れた作品が生まれたのだ。

 出版不況の中、コンビニ版が毎年のように刊行されたのも、それだけの売り上げが見込めるということだろう。
 資本主義社会において「エンターテイメントとして優れている」「面白い」ということは最強なのだ。
 売れる本は時代を超えて刊行され続け、いくら内容が良くても売れない本は消えていく。
 
 原爆地獄の広島で、家族や友人たちを虐殺され続けたかつての少年が、その怨念を背負ってたった一人、ペンをとった。
 単身、人類最強兵器や超大国に喧嘩を売ったのだ。
 戦時中の爆撃機VS竹槍どころではない、核兵器VSペンなのだ。
 まともに考えれば勝てるわけがないのである。
 事実、作者が希求した核廃絶への道のりはまだまだ遠い。
 核抑止論という極めて原始的なパワーバランスの在り方は、原始的であるだけに、突き崩すことは容易ではない。
 世界中の頭脳が知恵を結集しても、いまだこの野蛮な理屈をひっくり返せていない。
 それでも、「はだしのゲン」は世界中で読み継がれている。
 野蛮な最強兵器の存在に、ほんの一矢でも反撃し得ているのが、知識人の言説などではなく、一匹狼気質の被爆者が描いた「たかがポンチ絵」なのだ。
 これを「奇跡の善戦」と呼ばずしてなんと呼ぼうか。
 野蛮で巨大な力に対抗できるのは、こちらも原始的な、虐殺された側の「怨」の一念という情動しかないのである。
 
 およそ勝てるはずのない喧嘩を売って、けっこう戦えてしまっている男を見たとき、たとえその男の政治的発言に考えの違うところがあったとしても、私の美意識では「およばずながら助太刀いたす」と呟くのが正しい。
 義侠心とか大和魂とか武士道とか、呼び方はなんでもかまわないのだが、腹をくくって戦いを挑む男を後ろから切りつけるような真似は美しくないのである。

 助太刀と言っても、せいぜいマイナーなブログで本を紹介し、自分でもコンビニ版を購入して再読するくらいしかできないのがなんとも歯がゆいのであるが。

 ともかく、「はだしのゲン」をもっと世界に!


【関連記事】
映画「この世界の片隅に」
posted by 九郎 at 08:15| Comment(0) | TrackBack(0) | ブログ・マップ | 更新情報をチェックする

2019年02月04日

おりがみ origami 雛人形まとめ(2019年最新版)

 今年も年明けから「おりがみ 雛人形」等のキーワードで検索して来られる皆さんが増えてきています。そろそろ準備しなければならない時期ですね!
 実は一年のうちでこの時期が、もっとも当ブログのアクセスの伸びる時期でもあります。
 神仏絵描きのハシクレを自認している私としては、本来の神仏与太話と神仏絵図以外の、言ってみれば余技の部分を一番読まれているというのはちょっと複雑なんですけど……

 ともかく、過去記事の中から「おりがみ雛人形」に関する記事をまとめておきますので、よろしければ参考にしてください。

小さな雛型からコツコツと
おりがみ雛人形
おりがみ雛人形2008
おりがみ雛人形2009
おりがみ雛人形2010
おりがみ雛人形2011
「おりがみ歳時記(春)」内裏雛立体化
おりがみ雛人形2013 御所車
おりがみ雛人形2014 大名籠
おりがみ雛人形2015 御膳と菱餅
おりがみ雛人形2016 花かご
おりがみ(origami)雛人形2017 箪笥と火鉢
おりがみ(origami)雛人形2018左大臣・右大臣 
おりがみ(origami)雛人形2019 五人囃子

 当ブログでじわじわ作り続けているおりがみ雛人形は、現時点では以下の状態です。

hina2009.jpg


hina2011-01.jpg


hina2013-01.jpg


hina2014-01.jpg


hina2015-01.jpg


hina2016-01.jpg


hina2017-02.jpg


hina2018-01.jpg


shina2019-06.jpg

shina2019-07.jpg


おりがみ雛人形参考図書

 雛人形についての由来物語や関連記事は、以下の記事にまとめてあります。

中世淡嶋願人
雛流し

 雛人形の折り方の参考図書等は、各記事に紹介してあります。

 内裏雛だけではなく、段飾りの雛人形が一通り完成できる本を紹介しておきましょう。
 他にも段飾りの折り方は他にもいろいろあると思いますが、私は以下の二冊が気に入りました。


●「おりがみ歳時記(春)」河合豊彰(保育社)
 言わずと知れたおりがみ師・河合豊彰の主著「おりがみ歳時記」の一冊。
 内裏雛に三人官女、五人囃子に左右大臣、仕丁、アクセサリーや持ち物まで折り尽くして見事な五段飾りを完成できる。
 難易度はけっこう高いかもしれないが、伝承おりがみの雛人形や、立ち雛など、比較的易しい折り方もあわせて掲載されているので一安心。
 この本の折り方をアレンジして立体風に作った記事を、上の方でも紹介しました。
「おりがみ歳時記(春)」内裏雛立体化
 以下の写真のように出来ます。

hina2012-07.jpg


 また、以下の本にはもう少し難易度の低い折り方が紹介されています。

●「おりがみ日本の四季」桃谷好英(誠文堂新光社)
 おびな、めびな、左右大臣、三人官女、ぼんぼり、桃の花、御所車、牛、御膳、御椀、菱餅の折り方が掲載されており、コンプリートするとけっこう豪華な段飾りになるはず。
●「おりがみ日本の四季」桃谷好英 (新・おりがみランド)
 改訂版。こちらの方が掲載されている折り方が増えているようです。

 おりがみではなく、雛人形そのものについての資料は、以下の一冊がお勧めです。


●「お雛さまをたずねて」藤田順子(JTBキャンブックス)
 日本各地の名品雛人形を多数の写真で紹介してあるので、おりがみで制作するときにも非常に参考になる。雛人形は時代や地方ごとに顔立ちや装束が違うので、好みのお手本を探してみよう。
 雛祭の歴史や薀蓄についても詳しい。


 そもそも雛人形の発祥は、和紙や木で作った「ひとがた」であったとのこと。そこから紙製の立ち雛になり、徐々に今の形に変遷してきたそうです。
 雛人形を表現するときにおりがみという手法を使うことは、伝統に沿っていることになります。
 
 少しでも参考にしていただければ幸いです。
posted by 九郎 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ブログ・マップ | 更新情報をチェックする

2019年05月01日

おりがみ origami 兜まとめ(2019最新版)

 当ブログでは毎年、年始あたりからおりがみ雛人形、三月頃から「おりがみ 兜」の検索結果から訪問される皆さんが増えてきます。
 ブログ本来のテーマ「神仏与太話」より、おりがみ等の工作作品の記事の方が人気があるのは少々フクザツな気分ですが、アクセスがあることを素直に喜んでおきましょう(笑)

 そろそろ五月人形の時期が近づいてきましたので、おりがみ兜のまとめ記事を再掲しておきます。

kabuto-01.jpg


おりがみ兜
kabuto-02.jpg


おりがみ兜の色々
kabuto-09.jpg


おりがみ兜の色々2
kabuto-11.jpg


おりがみ兜の色々3
 ネットで公開されている兜の折り方を紹介しています。
kabuto-16.jpg


おりがみ兜の色々4
kabuto-18.jpg

●前川淳さんの「本格折り紙」https://amzn.to/427BRfT から、「飾り兜」を紹介しています。


おりがみ兜の色々5
kabuto-22.jpg


おりがみ兜の色々6
kabuto-31.jpg


八咫烏の兜
kabuto-12.jpg


 織田信長を苦しめた鉄砲集団雑賀衆が着用した雑賀鉢をテーマにした作品もあります。
おりがみ雑賀鉢(完結編)
 今のところ、これが一番のお気に入り。

kabuto-29.jpg


kabuto-30.jpg
 

 上杉謙信が使用したと伝えられる異形の兜はこちら。
 おりがみ「三宝荒神形張懸兜」

kabuto-33.jpg

 森蘭丸所用(?)の六字名号兜はこちら

kabuto-35.jpg


 謙信と蘭丸のネタ元になった鎧兜は、様々なムック本でも紹介されていますが、来歴にはかなり疑問があるようですね。
 一応そのあたりも留意しつつ、お楽しみください。

 大河ネタ、真田幸村の兜はこちら

kabuto-37-02.jpg


 同じく大河ネタで、井伊の赤備をネタに折ったのが以下のもの。

kabuto-38-01.jpg


 2018年は楠木正成の兜をイメージした「三本角」を工夫してみました。

kabuto2018-03.jpg


 そして今年は、伊達政宗の三日月形前立て兜をイメージした一作。

kabuto2019-06.jpg


 おりがみだけでなく、プラスチックの植木鉢を使った鎧兜の工作記事もあります。
 雛形工作:プラ鉢鎧兜
 プラ鉢鎧兜 制作覚書
waka-32.jpg


 参考図書もご紹介。

●「戦国武将の時代折り紙」浜田勇(日貿出版社)https://amzn.to/42hGK6u
 有名どころの戦国武将の兜が、わりとリアルな最限度で網羅されています。難易度はやや高めか。
 兜だけでなく、「家紋と付き物」「雅な器」などの周辺の装飾品も充実しているので、紙を選んで揃えると、かなり豪華なセットにできそうです。

 ぜひ参照してみてくださいね!
posted by 九郎 at 22:00| Comment(6) | TrackBack(0) | ブログ・マップ | 更新情報をチェックする