へんろみち 90年代熊野５

　はるばる歩いてきたわたしを
　狛犬たちがにらみつける

　まるで「帰れ」というように

　ここは神さまのお山
　その名を口にするのもはばかられる
　清浄なお山

　周囲の巨樹が風にゆれる

　よく見ると
　神さまそのものの樹木がならぶ

（続く）

へんろみち 90年代熊野６

　さらに奥へ

　神代のむかし
　如意宝珠のうめられた場所

　玉石のあたまがわずかにのぞく

　霧がはげしくたちこめる

　まぶしい

（続く）

へんろみち 90年代熊野７

　たなびく龍雲をながめながら
　お山をおりる

　朝の河原で

　歩いて彼岸へ

　こんもりとした森の中へ

　森をぬけ

　この世にかえってきた

（続く）

へんろみち 90年代熊野８

　そしてまた
　いくつもの山をこえ

　山をおりると

　海に出る

　波音にねむる

（続く）

へんろみち 90年代熊野９

　夜明けにめざめ
　刻一刻の雲をながめる

　黒潮の洗う海辺をそぞろに歩く

　歩きへんろはこれでおしまい
　海をゆっくりながめたら
　そろそろ帰ろう

（90年代熊野のアルバム、了）