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2018年06月10日

ナマズの思い出

 90年代初頭から熊野に心惹かれ、夏には毎年のように遍路に出かけるようになった顛末は、このカテゴリ熊野で継続して紹介してきた。

 遍路中の食事、かの地の味覚についても、いくつか紹介してきた。

 茶粥
 サンマの丸干し
 ひだる神

 今回は熊野に向かうバスの車中での、ちょっとした思い出について。

 紀伊半島南部にあたる熊野は、日本有数の山岳地帯。
 かつての参詣道のうち、比較的高低差のない川沿い海沿いの何本かは、ほぼ車道に上書きされてしまっている。
 そうしたルートは道幅が狭く、歩道が確保されていない区間も多い。
 歩き遍路には全く向かないので、とくにこだわりがなければ、素直にバスに乗った方が良い。

 バスは路線バスなので、時間帯によっては中高生と一緒になることがある。
 たぶんもう二十年近く前になるが、そんなバスの中での地元の中学生男子二人の会話が記憶に残っている。

 二時間ほどのバス移動中、座席でうつらうつらしていると、夏休みの部活に通っているのであろう二人のやりとりが、なんとなく耳に入ってくる。

「昨日の晩飯のナマズのかば焼き、めっちゃうまかったわ〜」
「ウナギとちゃうのん?」
「いや、ナマズ。ウナギもうまいけど、オレはやっぱりナマズの方が好きやな〜」
「へ〜。オレ、ナマズは食ったことないわ」
「いっぺん食ってみ! ウナギにも似てるんやけど、なんて言うかもっと身が柔らかくて……」

 私はバスに揺られて半分寝ぼけながら、「ナマズのかば焼き、いつか食べてみよう」と考えていたが、いまだにそれは果たされていない。

 なぜ今になって「ナマズのかば焼き」のことを思い出したかというと、このところ「ウナギ絶滅の危機」のニュースを度々目にするからだろう。
 ウナギの絶滅の危険性についてはもう何年も前から報道が繰り返されてきたが、土用の丑の日にむけ、スーパーやコンビニ、牛丼チェーン店等の大々的な販促キャンペーンが見直されることはなかった。
 一応正規の入手ルートであるなら仕方がないかとも思っていたのだが、先日以下のような報道があった。

「日本の養殖池に入れられるニホンウナギの6〜7割が違法に漁獲された可能性が高いなど、絶滅危惧種のウナギの密漁や違法取引が横行しているとする報告書をワシントン条約事務局が1日までに公表した」

 これぞ「偽装大国ニッポン」の悲惨な現状である。
 官も民も上から下まで目先の金を追いかけ、腐りきっているのである。
 このような状態で消費が続くなら、ウナギの絶滅は不可避。
 もう手遅れかもしれない。
 ウナギはその生態から完全養殖が難しく、今後劇的に回復する見込みは無いのだ。
 
 私もウナギは大好きだが、ちょっともう素直に味わうことはできそうもない。
 今後、出していただいた場合を除き、自分から進んで食べることはないだろう。
 そんな流れで思い出したのが、昔々の熊野の記憶である。

「ナマズのかば焼き、そう言えばまだ食べてなかったなあ……」

 そう言えば何年か前、マグロの完全養殖技術で名を上げた近大が、「ウナギ味のナマズ」の開発に成功したというニュースがあった。
 たぶん「実用化」にはまだまだ紆余曲折はあるのだろうけれども、ウナギの保全にプラスになってくれるといいなと思う。

 と言うか、より根本的には販促キャンペーンで一つの食材を大量消費するスタイルは、消費者の方から「NO」を突き付ける見識を、そろそろ持った方が良いと思う。
 同じかば焼きでも、美味しいものは他にいくらでもある。
 サンマだって美味しいし、たぶんナマズはウナギに似せなくともナマズとして美味しい。
 アナゴも(私が好きなのはかば焼きではないが)美味い。

 絶滅危惧種を私たちの世代で食い尽くす必要は、どこにもないのだ。
posted by 九郎 at 10:35| Comment(0) | 熊野 | 更新情報をチェックする

2019年10月06日

2019十津川、山村スケッチ その1

 今年の夏、奈良県の十津川村でキャンプをしてきた。
 久々のアウトドアを堪能してきたのだが、実はもう一つ目的があって、村内のとある山村である。

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 その気で調べればすぐに名前も出てくるし、過去記事でも触れたことがあるのだが、何せ世帯数の少ない小さな集落。
 村全体が「よそ様の庭先」みたいな静かな雰囲気なので、ここでは地名は書かないことにする。
 現地に辿り着くまでにかなり時間がかかり、何日か泊まり込まないことにはスケッチも難しいので、せめて写真を撮りためておきたかったのだ。

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 はじめてこの山村を通りかかったのは、たしか90年代初頭、十津川沿いのキャンプ地から散歩で軽く登った時のことだった。
 同じ旅程で登った玉置山とともに強く印象に残り、帰ってから当時見た夢とミックスして、一息にマンガを描いた。
 今見るとちょっと水準を満たしていないので、サムネイル程度でご紹介(笑)

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 90年代に訪れた際、民家ののきしたで撮影した風景が何故かずっと記憶に残り、ようやく絵にできたのが昨年。

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 ●F20アクリル「のきした」

 その後も90年代、2000年代に何度か山村に足を運び、今回は十年以上間が空いた。
 少しずつ記憶と違っていたが、依然として「絵本のような」風景。
 今回の山村でも、上で紹介した「のきした」は、ゆかしく整えられていた。
 たぶん二十年前と同じ住人の方のセンスなのだろう。

 そう言えば、ちょうど村の盆踊りにあたったこともあった。
 廃校の校庭がしばし往年の賑やかさを取り戻した、とても楽しく、切ない風景だった。

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 山村のある奈良県南部の十津川村は、日本最大の村。
 その範囲を含む絵図を、むかし描いたことがある。

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 90年代の十津川、玉置山、小辺路、本宮、那智、新宮を、ほろほろと歩き回っていた頃の写真を、簡単な詞書とともにこのカテゴリで紹介してきたこともある。

 へんろみち 90年代熊野


 90年代の十津川、玉置山、熊野の遍路体験を元に、2000年代に入ってからサイズの大きなアクリル画を制作した。
 玉置山の神代杉や那智の瀧をモチーフにしたもの。

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 描いてから既に二十年近く。
 いずれまた、アップデートした表現で大作に取り組んでみたい。



 長い前置きはどのくらいにして、そろそろ本題。
 記憶が完全に消えてしまわないうちに、出来るだけ写真からの簡単なスケッチ起こしをしておこうと、九月中描き続けていた。
 次回記事から紹介していきたい。
posted by 九郎 at 14:00| Comment(0) | 熊野 | 更新情報をチェックする

2019年10月07日

2019十津川、山村スケッチ その2

 一枚目は現地で唯一描けた十津川景。
 A4サイズを横長に二つ折りにした半分を使ったパノラマ画面。
 風景は縦描きにしろ横描きにしろ、画面の縦横比が離れていた方が描きやすい場合が多い。
 川面の鮮やかな「水色」が、十津川景のポイント。

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 次にむかし打たれたことのある滝。
 とくに行場というわけではないはずだが、当時は真下に岩があり、立って打たれることができた。
 今回は未確認。

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 十津川沿いから山村へと登る別れ道。
 ちょっと横尾忠則「Y字路」風(笑)
 写真通りではなく、複数の写真を一枚のパノラマ画面に入れるためにかなり編集した「絵図」。
 最終的にはむかし中途半端に描いたマンガのリメイクを目指しているので、絵柄もじわじわマンガ絵に寄せて行く。

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 十津川から山村への登り口。
 見た目はシンプルな一点透視だが、これも4〜5枚の写真の情報を統合した「絵図」。
 一枚ずつの現地写真は撮れる範囲が狭いので、記憶の残るうちにまとめないと無駄になってしまう。
 ごく簡単なスケッチでも描いておけば空間認識が固定され、90〜00年代に撮った写真も資料として活きてくる。

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 山村への登り道をそろそろモノクロで。
 こちらも複数の写真を統合。
 現地で同じようなアングルを「写生」すると、道の手前に木立が重なり、画面上の山道は消えてしまう。
 ところが、目で見て「認識」した風景では、添付の絵図のような、かなり木を間引きした「印象」に。
 川はもう少し入れられたかも。

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 十津川沿いから小一時間登り、いよいよ山村へ。
 木立の向こうが明るく開けて来る。
 例によって複数写真を統合。
 マンガ絵の場合はグレー階調を使わず白黒だけ。
 近景、中景、遠景の三段階を意識し、線の太さ等を使い分けると奥行きが出やすい。

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(続く)
posted by 九郎 at 00:00| Comment(0) | 熊野 | 更新情報をチェックする

2019年10月08日

2019十津川、山村スケッチ その3

 木立を抜けて山村へ。
 開けた斜面地に田畑や庭、家屋が、絵本の世界のように並ぶ情景。
 ごちゃごちゃ描き込んでいるが、省略するにはスケッチで一旦描き込んでから次のステップで。
 上手い人は最初から省略できるのだが、私は昔から苦手(苦笑)

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 山村の中へ。
 写真と地図と記憶をつきあわせながら、情報をダイジェストしてパノラマ画面上で編集。
 モノクロペン画での自然景のボキャブラリーもじわじわ広げる。

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 そして坂道をしばらく登った見晴らしのよい位置に、廃校が見えてくる。

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 学校跡は現在、教育資料館になっており、さほど荒れずに保存されている。
 木造のとても雰囲気のある校舎で、今年行った時には盆踊りに備えてヤグラの骨組みがあった。
 むかし一度だけこの校庭の盆踊りに行き合わせたことがあったことを思い出す。

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 校庭の生け垣を出ると村内一望、美しい棚田の風景が眺められます。

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 そしてラストの一枚は、村の入り口を斜め上から見守るような位置にある神社景。

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 計十二枚描き起こし、この夏の記憶が地勢とともにある程度固定できた!

 できれば次のステップで、むかし中途半端に描いたマンガのリメイクまでもっていきたいのだが、しばらく寝かせてからにします。
posted by 九郎 at 00:00| Comment(0) | 熊野 | 更新情報をチェックする

2021年07月25日

リメイクマンガ「ずれ」

 もう三十年前の学生時代、文芸系サークルの夏合宿で十津川村に行き、合宿報告に載せるためにマンガを描きました。
 間に合わせで一日ぐらいでざっと描いたもので、内容には思い入れがあったものの、ラフネームにむりやりペン入れした感じになってしまい、ずっとリメイクしたいと思っていました。

(クリックすると画像が大きくなります)
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 コロナ禍以前の二年前の夏休み、子供らを連れて十津川村を再訪。
 写真を撮りまくってスケッチをしているうちに「今ならリメイクが描けるかも」と感じましたが、その時は果たせず。
 十津川、山村スケッチ その2
 十津川、山村スケッチ その3

 今年に入ってから何故か突然昔から描きたかったマンガが描け出した勢いで、リメイクすることができましたのでご紹介。
 三十年前の十津川村合宿での見聞と見た夢をシャッフルしたリメイクマンガ「ずれ」全8ページ。

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posted by 九郎 at 11:25| Comment(0) | 熊野 | 更新情報をチェックする