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2008年12月29日

どんぐりと山猫

 秋を過ぎ、公園の木の下を歩いていると、ふと足元一面に転がるどんぐりに気付くことがある。

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 どんぐりがたくさんあるのを見ると、なぜか楽しくなってくる。拾ってどうなるわけでもないのに、手のひらやポケットがいっぱいになるまで、ひとしきり拾い集めてみたくなったりする。
 子供の頃の頃の記憶がよみがえってくる。
 たしか祖父母の家の近所にあった観音様のお堂にも、たくさんのどんぐりが転がっていて、拾ったり、並べたり、転がしたりして、飽きずに遊んだ覚えがある。
 どんぐりの季節には木々の葉は色づき、空は秋晴れで、木立を歩くと落ち葉を踏む音がにぎやかで、心は自然に浮き立ってきた。

 宮沢賢治『どんぐりと山猫』を読むと、そんなにぎやかな秋の山の情景が、華やかに楽しく目の前に広がってくる。
 青空文庫『どんぐりと山猫』

 冒頭部分、主人公のもとに山猫から届いた手紙の文面で、読者は即座に作品世界に巻き込まれてしまう。
かねた一郎さま 九月十九日
あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。
あした、めんどなさいばんしますから、おいで
んなさい。とびどぐもたないでくなさい。
                山ねこ 拝
 この奇妙な手紙に誘われて森の中へと入り込んだ一郎が、どんぐりたちの「めんどなさいばん」に参加して、代官役の山猫に協力するお話。

 落ち葉の中に見え隠れするどんぐりは、どれもつややかに光って見えて、いっぱい拾うと何か得をしたような気分になって、無駄と知りつつついつい家に持って帰ってみたくなったものだ。
 持ち帰って部屋の中で見てみると、あんなに光って見えたどんぐりたちも、魔法が解けたように土で汚れてくすんで見えてしまうのだけれども。
 作品の終わりの以下の描写は、そんなどんぐり拾いの思い出とよく重なって、読んでいると思わず笑みが浮かんでくるのだ。
馬車は草地をはなれました。木や藪がけむりのようにぐらぐらゆれました。一郎は黄金のどんぐりを見、やまねこはとぼけたかおつきで、遠くをみていました。
 馬車が進むにしたがって、どんぐりはだんだん光がうすくなって、まもなく馬車がとまったときは、あたりまえの茶いろのどんぐりに変っていました。そして、山ねこの黄いろな陣羽織も、別当も、きのこの馬車も、一度に見えなくなって、一郎はじぶんのうちの前に、どんぐりを入れたますを持って立っていました。
posted by 九郎 at 23:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 宮沢賢治 | 更新情報をチェックする

2008年12月30日

カテゴリ「宮沢賢治」

 宮沢賢治の作品には昔から折にふれて読んできた。
 童話作家の代表としての評価が定まった感がある賢治だが、正直言って、作品自体はそれほどわかり易いものではない。
 今の子供に賢治の本を与えても、独力で読み、楽しめる子は少ないのではないだろうか。
 物語としての筋立てがはっきりしたものばかりではなく、幻想的なイメージをそのまま書き記したような作品が多い。
 そのことは賢治自身も自覚していたようで、存命中に刊行された唯一の童話集『注文の多い料理店』の序文にも、そのように明記してある。
 青空文庫『注文の多い料理店』序
 (前略)
 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
 (後略)

 また賢治は自身の詩について「心象スケッチ」という言葉を使っている。この言葉遣いからも、作品としての首尾一貫よりも、幻視したり感じたりしたイメージをそのままに書き記すことに力点を置いていたことがうかがえそうだ。 

 このカテゴリでは、謎の多い宮沢賢治の作品について、謎は謎のままに、私の感覚がいくらか賢治と同期したと思える点について、メモしていきたいと思う。

【宮沢賢治の作品について】
 賢治の作品については著作権が失効しており、その多くが青空文庫で公開されている。また、入手しやすい文庫本も数多い。
 中でもお勧めは以下の文庫本。

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(カバーは刊行機会により変遷)
https://amzn.to/3Yd2X44
●『注文の多い料理店』宮沢賢治 (角川文庫)
 賢治作品を収録した文庫本は数あるが、この一冊は賢治本人による唯一の自選童話集を、元の本になるべく近い構成で再現されている。当時の挿絵をそのまま使用しているのが素晴らしく、解説も充実している。
 九編収録されている作品はどれも短く、比較的読みやすいものが揃っている。
 賢治の作品にふれようとする時、最初の一冊としてお勧めしたい。
posted by 九郎 at 15:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 宮沢賢治 | 更新情報をチェックする