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2025年09月21日

宮沢賢治『注文の多い料理店』

 本日は詩人、童話作家の宮沢賢治の命日とのこと。
 この機会に、こちらのカテゴリ:教養文庫でもレビューを書いておこう。

 宮沢賢治の作品は、子どもが読みやすいかというと、実はそうでもない。
 現代は「わかりやすく、ストレスなく楽しめる」作品が世に溢れているので、そうしたエンタメと同じ気分で手にとると、戸惑うだけになってしまうことも多いだろう。
 小学校国語教科書によく『やまなし』が掲載されているのは、宮沢賢治の入り口として非常に良い。
 普段TV等で親しんだ、「てっとりばやく筋を追う」のとは全く違う作品の楽しみ方があるという体験を通して、不思議なイメージが記憶に刻まれる。

 とは言え、宮沢賢治の作品に全くエンタメ性がないかと言えばもちろんそんなことはなく、今読むとけっこうポケモンぽかったりする。
 物語の冒頭で自然に分け入り、生物を基本としながら少し変わった奇妙な「精霊」と出会い、言葉でやりとりを交わしていく構成のせいだろうか。
 とくに存命中に刊行された唯一の童話集『注文の多い料理店』には、そういうタイプの作品が多く収録されている。

 この童話集は今も様々な形で刊行されているが、刊行当時の構成や挿絵が再現され、解説も豊富な角川文庫版がお勧めだ。

●『注文の多い料理店』宮沢賢治(角川文庫)
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(カバーはかなり以前の物)

 以下、各作品について簡単に紹介してみよう。

■『どんぐりと山猫』
 タイトル作以外では、この掲載一作目が好きな人は多い。
 冒頭の山猫の手紙の「とびどぐもたないでくなさい」というフレーズで、もう宮沢賢治のペースに巻き込まれてぐいぐい読まされてしまう。
 お話の内容自体は「ドングリの背比べ」だったりするのがまた良い(笑)

■『狼森と笊森、盗森』
 子供の頃読んだ時はピンと来なかった。
今読むと、北米インディアンあたりの創世神話のようにも読める。
 岩がしゃべり、森がしゃべり、狼がしゃべり、山の異人がしゃべる。
 笊を持った山男は、「箕作り」のサンカのイメージか?
 内容はファンタジーなのだが、語り口は透き通った理系なところが賢治節だ。

■『注文の多い料理店』
 賢治の基本は「イメージ投げっぱなし」だ。
 文字情報から自力でイメージを描けるかどうかが楽しめるかどうかのポイントで、自然の風景から切り離されがちな現代の子どもの状況は、賢治作品を読むときのハードルになっている。
 童話集『注文の多い料理店』の場合は、挿絵の効果が大きく、このタイトル作には一般に受け止めやすい素材や構成がある。

■『烏の北斗七星』
 私が今住んでいる都市部でも、夕方、烏の群れがやたらに鳴いていることがある。
 何か事件が起こっていそうで、その内容が知りたくなるが、あいにく烏語は解さないので詳細は不明だ。
この作品は、そういう烏の大騒ぎから発想したのかもしれない。
 さすが賢治の妄想力のスケールは大きく、烏の軍人、老若男女のロマン、北斗七星の宇宙イメージの広がりは、『宇宙戦艦ヤマト』並みだ。

■『水仙月の四日』
 雪国の春、最後の吹雪が荒れ、外出していた少年が危機に陥る。
 今読むと、雪婆んご、雪童子、雪狼のキャラデザをポケモン風にすれば、ポケモンシリアス回のイメージがよく似合うと感じる。
 雪童子がふと人間の子どもに同情し、そっと助けて去るところなど、とくにそう感じる。

■『山男の四月』
 山男は『狼森と笊森、盗森』の山男と同じキャラクターだろうか?
 あれからかなり年月が経って、神通力を心得ているような感じもする。
 町中に入ってから怪しい薬売りとやり合う展開は、結局夢オチになるのだが、もしかしたら賢治がこういう夢を見て作品化したのかもしれない。

■『かしわばやしの夜』
 宮沢賢治の童話は音読してこそ楽しい。
 とくにこの作品は、途中からラップバトルみたいな展開になるので音読向きだ。
 頭での「理解」が主体になる黙読ではわからなかった面白さが、音読すると体にしみこんでくる感じがする。

■『月夜のでんしんばしら』
 ごく素直に読むと、タイトル通り月夜のそぞろ歩きのおりに、線路わきの電信柱の列を眺めながら着想した作品と見る。
 ただ「電気総長」の怪しさからすると、まだ「電気」「電信」というものが目新しく、電信柱が風景にまだ馴染んでいない時代が生んだ、幻想の一種ともとれる。
 いつの時代も「新しい技術」は妖怪じみた印象を与えがちで、最近の「コロナワクチンと5G妄想」なども記憶に新しいところだ。

■『鹿踊りのはじまり』
 これも枯野を見晴らしている間に見た幻想という体裁。
 栃団子と手ぬぐいに、こわごわにじり寄ってくる六頭の鹿たち。
 台詞と踊りと歌がものすごく面白い。
 草食動物つながりか、うちにいるウサギの行動パターンとも似て見える。
 賢治は野山の鹿もよく観察しており、その実体験ありきの幻想なのだろう。

■付録『注文の多い料理店』新刊案内
 本書冒頭の「序」とともに、昔読んだ時は「作者が自分で何をゴニョゴニョ書いているのだろう?」と思った。
 今読むとものすごく「分かる」感じがする。
 とくに大人で「宮沢賢治がよく分からない」という人は、まず取説として「序」やこの「新刊案内」を読むと良いのではないか。

■解説「兄、宮沢賢治の生涯」宮沢清六
12ページほどの短い文章だが、著者を身近に知る弟の貴重な証言で、必読。

■解説「新しい古典復刻の弁」小倉豊文
 賢治存命中に刊行された唯一の童話集初復刻の企画担当者による解説。
 活発に創作していた時期の賢治の動向がかなり詳しくまとめられている。
 人付き合いの苦手な「孤独な詩人」のイメージが強い賢治だが、これを読むと明治に生まれ、野心と茶目っ気に溢れ、仲間と激論を交わしながら駆け巡る大正の若者の姿が浮かんでくる。基礎資料。

 他にも早坂暁による解説「注文の少い本」、中村稔による詳細な年譜など、本文158ページ、解説その他の資料が80ページ近く。
 角川文庫『注文の多い料理店』は、宮沢賢治の一冊目としていまだに不動の価値があると思う。
posted by 九郎 at 17:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 教養文庫 | 更新情報をチェックする

2025年09月18日

『播州パノラマ草子』落穂拾い4

 9.14に参加した文学フリマ大阪13の新作冊子『播州パノラマ草子』で語り残した話題について、覚書にしています。

 私が見てきた70年代以降の播州について、今回の冊子では最後のあたりに少し触れただけでしたが、こちらのブログでは様々な形でスケッチを描いてきました。

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原風景スケッチ2

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播州、田んぼの風景

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 冊子に掲載するならペン画の方が向いていて、この6年ほどマンガを描くことでペン画対応を進めてきたので、今なら播州の風景を思うように描けそうな気がしています。

 私の世代は昔ながらの田園風景だけでなく、工業地帯や昭和の風景の印象も強く、そちらも描いていきたいテーマです。

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 こうして落穂拾いを綴ってみると、『播州パノラマ草子』パート2も、十分行けそうな気がしてきました(笑)
(了)
posted by 九郎 at 18:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 原風景 | 更新情報をチェックする

2025年09月17日

『播州パノラマ草子』落穂拾い3

 9.14に参加した文学フリマ大阪13の新作冊子『播州パノラマ草子』で語り残した話題について、覚書にしています。

 播州の戦国時代については、これまでにブログ記事にした範囲の「石山合戦の中の英賀合戦」と「黒田官兵衛」関連を掲載しました。
 まだ記事にはしていないものの、現地レポートを書いたり、絵図に出来そうな材料があるものとしては、「三木合戦」があります。
 織田軍の播磨における覇権を決定的にしたこの合戦、「三木の干し殺し」として秀吉&官兵衛コンビの攻城戦ノウハウが確立した合戦でもあります。
 三木城跡をはじめとする史跡や、みき歴史資料館、三木市立金物資料館など規模は小さいながら各種展示施設もあり。

 加古川に流れ込む美嚢川流域にあたるこのエリアには、神戸電鉄粟生線や、今は廃線になった三木鉄道を辿る面白さもあります。

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(続く)
posted by 九郎 at 18:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 原風景 | 更新情報をチェックする

2025年09月16日

『播州パノラマ草子』落穂拾い2

 9.14に参加した文学フリマ大阪13の新作冊子『播州パノラマ草子』で語り残した話題について、覚書にしています。

 載せたいなと思いながら、そもそもブログ記事でほとんど書けていなかったので見送らざるをえなかったのが、「播磨の陰陽道」というテーマ。
 安倍晴明を代表とする宮廷陰陽師に対し、播磨から吉備にかけては民間陰陽師の本場でした。
 古代から朝鮮半島経由で九州、瀬戸内海と、海路で大陸の最新文化がもたらされ、権威の強い奈良京都より融通無碍にそれぞれの地域で根付いていました。
 その民間パワーが結集されたキャラクターが晴明のライバル、播磨の芦屋道満だったのでしょう。
 播磨の陰陽道については以下の本。

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●『はりま陰陽師紀行』播磨学研究所編 
 2006年に出た本の2021年復刊。元の本は刊行当時読んでいました。
 表紙が変わっているのを図書館で見つけたので、内容の異同の確認ついでに借り。


「播磨は芦屋道満の本拠地にして民間陰陽道が盛ん」とはよく言われます。
 播磨いうより吉備〜播磨までの広い範囲で、連続して陰陽道の文化が盛んでした。
 その後の播磨は浄土真宗本願寺派の上書きを経て、表面上は陰陽道の要素が見えにくくなっています。
 今その痕跡を探すなら、芸能方面でしょう。
 そう言えば播州における陰陽道系信仰の元祖で、黒田官兵衛と縁のある姫路の廣峯神社も、まだ参拝できていない。


 新作冊子の編集中、図書館で調べものをしていて、そんなテーマにぴったりの本を見つけてしまいました。

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●『播州歌舞伎の主役たち』寺川俊人(日本放送出版協会)
 三十年ぐらい前、私が古代播磨を学ぶきっかけになった『神々のさすらい』と同じ著者。
 現在の加西市で近世に隆盛した「高室芝居」から始まる旅の一座の取材記録。
 編集中、全部熟読する余裕はありませんでしたが、起源に関する部分は読了。
 播州歌舞伎は北条町に流れ着いた上方歌舞伎役者を起源とするのが一般的ですが、姫路の能楽師説や、陰陽師の軒下を借りて禁制をしのぐ過程など、めちゃくちゃ面白く読みました。
 キーマンになる「高崎播磨」チェケラ。
 私の親世代(つまりテレビ放送第一世代)くらいまでは、まだ「小屋掛けの村芝居」というものが残っていたそうで、おそらくその中の多くが「播州歌舞伎」だったのではないかと思われます。

 播磨の陰陽道〜芸能というテーマは、『播州パノラマ草子』掲載の以下の絵図の範囲内で、かなり取材できます。

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(クリックで画像拡大)

 この地域のローカル線の中で、しぶとく生き残っている北条鉄道沿線もかなり面白く、拡大絵図にするのも良さそうです。
(続く)
posted by 九郎 at 20:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 原風景 | 更新情報をチェックする

2025年09月15日

『播州パノラマ草子』落穂拾い1

 9.14文学フリマ大阪13、無事終了しました!
 当日の『縁日屋』ブースはこんな感じ。

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 文学フリマ大阪には、今のところ「五年に一回」くらいな頻度でしか参加できていませんが、見知った皆さんとも再会でき、新規でSNSで知ってきてくれた人もあり、なんとか収支トントン程度までもっていくことができました。
 とくに新作冊子『播州パノラマ草子』がけっこう出て、一夏編集した甲斐がありました。

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 実はこの『播州パノラマ草子』、語り残しもけっこうあります。
 このまま忘れるにはもったいないので、落穂拾いとして、今後の記事更新の道しるべとして、覚書にしておきたいと思います。

【第一章 播州剖判】
 播州の神話時代、「伊和大神」と名乗るようになる出雲系の一族、とりわけオホアナムチとスクナヒコナのコンビの活躍は絵解きしたいなと思いながら、まだあまり現地を辿れていないので今回は見送りました。
 また折を見て歩き、描いてみます。
(続く)
posted by 九郎 at 22:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 原風景 | 更新情報をチェックする